風花の間

□貴方に華を
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それから2日と空けずやってくるクールビューティーさん。

こんな素敵な男の子にお花を贈られる女の子を、少し羨ましいと思った。

お店ではニコリとも笑わないその端正な顔も、きっと優しく微笑むんだろう。

紫陽花、金魚草、鬼灯にトルコ桔梗、いつも一本ずつだが来るたびに違う花を選ぶ彼。

平日は閉店間際、きっちりとしたスーツ姿でやって来る。

これが物凄くカッコいいのだ!物凄く‼‼

土日は開店と同時に、ラフなTシャツにジーパンやシャツに短パンだ。

背は決して高くはないがスタイルがいいので、シンプルな服装がこの上なくお洒落に見えるのは何故だろう?

気付けば彼が来ない日はガッカリする自分がいた。




そんなある日、店じまいの準備をしながら、今日もあのクールビューティーさん来なかったな〜と思いながら、店頭の鉢植えを片付けていると、

「すまないが、まだ大丈夫だろうか。」

聞きたかったあの声がした。

「はい!いらっしゃいませ。」

満面の笑みで振り返ると、

「お、おまえ、 千歳か?!」

「へ?はっ!左之!!!」

クールビューティーさんの隣に、赤茶の髪の色男で昔馴染みの左之助が立っていた。

左之助は色男という表現が、昔からぴったりだった。

「元気そうじゃねぇか。何年ぶりだ?」

「う〜ん、5年だね。あの時はいろいろありがとね。」

「いや、俺は大したことはしてねぇよ。それにしても随分と雰囲気変わったな。相変わらずの美人っぷりだけどよ。」

「左之、そんなこと言っても、何にも出ないよ。」




あははと左之助は笑い、クールビューティーさんの耳元で、なにかボソボソと言った。

「斎藤......まさかとは思うが、こいつじゃねぇよな?他にバイトに嬢ちゃんがいるとか、そういうんだろ?」

「........... 。いや、俺の知る限りバイトはいない。それより知り合いなのか?随分と仲が良さそうだが。」

ボソボソと話す二人に、

「お客さん、今日はどんなお花になさいますか?」

「ああ、今日は、その.....。」

「何やってんだよ。斎藤、ほら!」

左之助に急かされている様子なので、

「左之助!このクー、じゃなくてお客さんはいつもじっくりと時間をかけて気に入ったお花を選ぶタイプなんだから、急かさないでよね。」

斎藤と呼ばれてるクールビューティーさんに、気に入ったものを買って欲しくて左之助を注意すると、左之助はニヤニヤと斎藤さんを見ながら、

「ふ〜ん、じっくりと時間をかけてねぇ〜。」

「べっ!別に構わないだろう。たくさんあって迷うこともあるのだ。」

「まぁ、理由がそれだけって訳でもねぇんだろうが。」

「さっ、左之!ごほっ!ごほ、ごほっ!」

途端に斎藤さんが酷く咳込み、咄嗟に駆け寄り背中を摩る。

「大丈夫ですか?お水をお持ちしましょうか?」

間近で見る顔は、とても綺麗で肌なんて私よりきめ細かい。

「だ、大丈夫だ。」

そう言って顔を上げた斎藤さんと目が合う。

「あれ?少しお顔が赤いようですが、大丈夫ですか?」

「っ!これは、その...////// せ、 咳き込んだせいだ。問題ない/////。」

「そうですか?ならいいんですけど。あ、どうぞ中のお花も見てくださいね。」

「ああ/////、そうさせて貰おう。」

お店の中へと斎藤さんが入ったので、私は左之助に聞いてみる。

「ねぇ、あの人斎藤さんっていうの?どういうお知り合いなの?」

「ああ、斎藤一って言って、俺の同僚だ。なんだ、気になるのか?」

「ち、違うよ!よく来るし、男の人がお花を一本買ってくから、彼女へのプレゼントなのかなぁ〜って思っただけ。」

「彼女へのプレゼントって訳じゃないんだろうけど、好きなヤツに会いにはよく行ってるみたいだぜ。」

「そっ、そうなんだ......。あれだけの美人さんだもんね。やっぱそうだよね。あ、左之助も中入ってて。私ここ片付けるから。」

「男に美人ってのも変だが、確かにな。ところで、 千歳はこの店一人でやってんのか?」

「そうだよ。親のやってた小さな店継いだだけだけどどね。」

「いや、立派なもんだぜ。昔馴染みからは、おまえの噂が全く出ねえから、結婚でもしてガキ作りまくってんのかと思ったけどな。」

「なに!それ!左之じゃあるまいし、やめてよね!」

「けど、そういうヤツの一人や二人いるんだろ?」

「いねえよ!左之助じゃあるまいし!」

店先でギャーギャー二人で騒いでいると、

「すまんが、あれを頂けるだろうか。」

「あ、すみません。お決まりですか?今日も一本で宜しいですか?」

「いや、今日はあるだけ全部頂こう。」

「あ、はい、畏まりました。プレゼントですか?」

「ああ。」

「承知致しました。では、ご用意致しますので、少々お待ちください。」

私は斎藤さんに言われた花をプレゼント用にラッピングする。

きっと好きな人へプレゼントするんだろう。

この花を選ぶところがまた彼っぽいな〜と思いながら、プレゼントを彼から受け取るであろう女の人を羨ましいと思った。

いつも表情一つ変えない彼が、今日はいろんな顔をしていた。

赤いほっぺを思い出しクスッと笑うと同時に、左之助の言葉が心の中に蘇る。

『好きなヤツに会いにはよく行ってるみたいだぜ。』

豪華なラッピングを施しながらも、自分の気持ちはどんどん沈んでくのが嫌になる程よくわかった。
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