風花の間

□主任が来た。
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ここは、株式会社HOK。国内外にいくつかのホテルを所有する会社だ。

そして今日、芹沢会長、近藤社長を筆頭に、土方専務、山南常務と役員が勢揃いし人事異動に関しての発令が言い渡されるらしい。

ここに集められているのはその対象者だ。

俺の所属する土方専務直属部署である営業部は、ここ数年で著しい成果を上げている。

この部署から離れるのは、正直なところ俺の本意ではないが.....

崇拝して止まない土方専務の推薦ということで、俺はあるプロジェクトの担当となる。

土方専務直属で新規で立ち上げるプロジェクト。

辞令の発表が始まり準備に名前が呼ばれたものが、近藤社長から辞令書を受け取っている。

『斎藤 一』

「はい!」

近藤社長の前へ進み出ると、

「新プロジェクト事業部への異動とする。これからも頑張ってくれたまえ!」

「はい、精進致します。」

近藤社長の活気溢れる笑顔に一礼し、拍手の中自分の位置へと戻る。

『なお新プロジェクト事業部には、新しく高月主任が帰国次第着任致します。』

そのアナウンスに会場内がざわめく。

“高月ってあの高月 千歳か?"

“あの伝説のか?”

“それ以外に主任で高月っていたか?”

「おい!静かにしろ!」

土方専務の一声で静まり返る室内。

そうなのだ。

この高月という女は、とんでもない伝説を幾つも持つのだ。

次々に新規で顧客獲得し営業成績トップ。

男顔負けの営業成績な上、後輩の指導も上手く我が社の業績に多大な貢献をした。

その手腕を買われ単独海外赴任。

海外赴任先ではマニュアル化を推進し自ら率先して陣頭に立ち、外国人にまで徹底した(株)HOKの接客を叩き込んだという。

その華々しい業務の裏に隠された伝説も数しれず...だとか。

その内容は、固定観念を植え付けたくないということで、土方専務からは聞かされていない。

土方専務よりも先輩だということだが、短大卒の為歳は変わらないそうだ。

そのような人と共に働けるのだ。

光栄に思わねばならないが。

俺は営業部を離れることへの若干の不満と、上司が女ということへの不信から胸中は正直なところスッキリしなかった。





辞令交付後、俺は営業部へと戻っていた。

「はじめくん、おかえり!どうだった?」

平助の声でまだ外出していなかった原田、新八、総司、龍之介に雪村が集まってきた。

「やはり新プロジェクトへ配属となった。」

そう答えため息を一つ落とすと、

「そうか。斎藤がいなくなるとここの起立が乱れそうだが、土方さんも俺もいるしな!心配いらないぜ!」

そういう原田に新八は

「そうだぜ、斎藤!」

「そうそう!これからは始業時間前には会社来るし!」

相槌を打つ平助をギロリと睨むと、

「あんた等がそれを言っても、どうも説得力にかけるよな〜。なぁ。」

そう言いながら龍之介が雪村を見ると、雪村が“あはは..."と渇いた笑みを漏らす。

「けどさぁ、新プロジェクト部ってどこにあるの?」

総司の言葉に皆の視線が俺に集まる。

そこで俺も考える。

「そういえば、聞いていない。」

「しばらくはここで我慢してもらう。なに、人員的には一人増えるだけだしな。問題ねえだろ。」

「「「「土方さん専務」」」」

やって来た土方専務にそう告げられ、俺は内心ホッとした。

「それじゃ、その高月主任って人もここに?」

「ああ、平助。おまえの横のデスク空いてんだろ?そこでいい。」

「けど土方さん。それじゃ、斎藤と高月主任は隣同志にならねえぜ。平助が真ん中だし。」

原田の言葉に土方専務は、

「なら、斎藤!平助!机ごと移動しろ。」

「御意。」

「ちぇっ、またはじめくんの隣かよ。これじゃネトゲできねぇじゃん。」

「何か言ったか、平助。」

「いっ、いいやっ!なんにも!」

くすくすと笑う雪村の隣で、龍之介が口を開いた。

「ところで土方さん、その新しい主任さんってのはどんな人なんだ?」

「あ〜あ、そういや、おまえら全員会ったことねぇか。」

土方さんと同年代の入社となると、かなり古株だ。

「そうなのか?原田や永倉もか?」

降られた二人も顔を見合わせ頷く。

「あいつがここにいたのは2年ほどだったからな。後は他のホテルへ配属され海外赴任してっから、俺も会うのは2年ぶりか。」

懐かしそうに話す土方さんに、

「それで、どんな人なんだ?」

もう一度龍之介が聞くと、

「女だ。」

。。。。。。。。。。。。。。。

しばしの静寂の後、

「あ〜、あのよぉ〜、土方さん?それくらいは知ってんだけどな、俺達が聞きたいのは、どんな女なのかってことで。」

「土方さんと歳が近くて結婚もせずにキャリアウーマンでしょ?新八さんの想像するよう人じゃなさそうじゃない?」

「そうだよな。どっちかっていうと、はじめくんの女版っぽい感じっていうの?」

「平助、何故俺が出てくるのだ。」

「いや、そうとは限らねえぜ。才色兼備で熟女って線もあるしな。」

「おっ、左之!それいいなぁ〜!」

「いい加減にしねえか!てめえら!くだらねえこと考えなくても、明日になればわかる。さっさと仕事にかかれ!」

「「「「は〜い」」」」」

「斎藤!おまえは後で来い。」

「承知致しました。」

皆が散りじりになり、平助と机の配置換えを済ました後で、俺は土方専務に声をかけた。
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