風花の間
□彼方に華を
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千歳に告白をしてから一週間。
左之が仲を取り持つ形で話がトントン拍子で進んだ訳だか......。
面倒見の良いのは左之が、 千歳のことを『お手上げ』と言った意味が身を以て解ることとなった。
........というのもこの一週間、 千歳からの連絡がない。
告白した次の日の土曜日、俺は仕事が休みで気が付くと朝から携帯を見つめていた。
携帯番号とアドレスを渡したにも関わらず、一向に連絡がないので二日酔いで寝込んでいるのではないかと心配になり、様子を見に店へ出向くと見知らぬ男が店番をしていた。
カウンターの椅子に座り足を組み、高慢な態度でこちらを見たその男は、
「ふん、客か。どれにするのだ。選ぶがいい。」
「.......。つかぬ事を尋ねるが、あんたは、何者だ。」
「俺はこの店の主人だが、それがどうかしたか?」
「......主人、だと?」
「そう言ったはずだが、聞こえなかったか?」
「俺は 千歳に用があって来たのだが、 千歳はいるだろうか?」
「おらん。居たとておまえになど教えぬがな。」
「..........。留守ならば出直そう。邪魔をしたな。」
「ふん、客でないのならば出直す必要はない。何度も来るな。」
「っ!!!」
「用がないのならさっさと出て行け。ドアは閉めておくようにな。」
店に 千歳以外の店員がいたことが初めてで、とりあえずその場は引いたが『主人』という言葉が気に食わなかった。
昼過ぎにもう一度 千歳の店を訪ねると、今度は日焼けした長髪の男がいた。
「あ〜ん?客か?面倒くせぇな。どれにすっか決まった声掛けろよ。」
そう言うと、カウンターに足を乗せラッピング用の英字新聞を顔に乗せて寝る男。
千歳の気配はやはり無く、こいつに聞いても無駄と判断した俺は、また出直すことにした。
夕方、もう一度店に足を運ぶと......、今度は顎髭の大男がいた。
二度ある事は三度あるというが、やはりな......。
はぁ〜と大きなため息を一つ、店の中へと入ると、
「いらっしゃいませ。どのような物をお探しでしょうか?」
礼儀正しい接客態度に、これまでの2人とは少し違うようだと思い、俺は口を開いた。
「俺は 千歳の知り合いだが、朝から彼女の姿が見えぬようで少々気になってな。」
そう言うと顎髭の男は腕を組み少し考えてから、
「 千歳に男性の知り合い、ですか。初耳ですが......。まあ、いいでしょう。今日は 千歳に私共の会社のレセプションの準備をお願いしているのですよ。予定ではそろそろ戻る頃です。火急の用件が有るのならば、連絡をいれますが。」
「いや、急用があるわけではない。」
「そうですか。では、何か伝言があればお伝えしましょう。」
「いや、大丈夫だ。邪魔をしたな。」
俺が知らない 千歳の携帯番号をこの男が知っているのが癪で、俺は伝言を頼まなかった。
己の子供っぽい嫉妬心を、後から後悔することも知らずに...。