風花の間
□貴方に華を
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ここは私が経営する小さな花屋。
もともとは両親が経営していたが、5年前に母が他界し今は私が受け継いだ。
ご近所に母の昔馴染みの喫茶店や小料理屋があるため、店頭での販売が少なくてもなんとか成り立っている。
そんなご近所さんからは、あの 千歳ちゃんが一人でお店を切盛りするなんてねぇ〜と言われ続けて早5年。
若い頃やんちゃやってた私は、母にたくさんのいらぬ心配をかけた。
それが今でも苦やめて仕方ない。
だから我武者羅に母の守ってきたお店を私も守ろうと決めた。
友達からの遊びの誘いは一切断り、我ながら真面目にやってると思う。
そんな私も今年でとうとう25歳。
チャラチャラした男も遊びの恋も、今の私にはただムダなことだった。
唯一の旧友万里子からは、 千歳はお花が友達、葉っぱが彼氏なんだしイイじゃん♪ とか言われた。
全く......褒めてんのか貶してんのか......。
そんな私の店に最近珍しいお客がやってくる。
年の頃は 二十歳くらい、端正な顔立ちにちょっと癖のある髪、長い前髪の隙間から覗く切れ長の瞳が印象的な男前。
男前というよりクールビューティーといったほうがぴったりな美人さん。
あれは調度一週間前の日曜日、店を開けてすぐに店頭の紫陽花の鉢植えに水をやっていると、葉っぱの裏にかたつむりを見つけた。
商品の紫陽花にいてもらうには無理だけど、かわゆいので店のガラスに這わせてみた。
ニョロニョロと進む姿が愉快でしばらく眺めていると、
「ちょっと良いだろうか。花を買いたいのだが。」
「あ、いらっしゃいませ。どうぞご覧ください。」
「ああ。」
店内へ案内すると、ゆっくりとブリキ缶の切り花を眺めて廻るお客さん。
「これを一本頂こう。」
紫色の火垂袋(ホタテブクロ)を指差し、きりりと言い放つ姿に、
「畏まりました。プレゼントですか?」
「いや。」
「ご自宅用ですね。少々お待ちくださいね。」
切口に水を含んだティッシュとアルミを巻き、包装紙でくるくる包み、
「お待たせ致しました。150円になります。」
ポケットから小銭入れを取り出し、シルバーのトレイに無言で置かれた小銭を確認し、
「調度いただきます。ありがとうございます。」
火垂袋を手渡すと、
「ありがとう。」
いい声だなぁ〜なんて思いながら、
「ありがとうございました。」
背筋をピンと伸ばし遠ざかる後ろ姿を見ながら、彼女へのプレゼントに火垂袋って.......若いのに案外シブいなぁ〜と考える。
私は火垂袋可愛くて好きだけどな〜。
世の中に女子はどうなんだろう?
まぁ、好きな人から貰った花はなんだって嬉しいだろうけどね。
火垂袋気にいって貰えるといいですね。
彼が誰かに贈ることを想定して、そう思った始まりの朝だった。