風花の間

□苦手なタイプ【中】
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花火が終わり2人で手を繋いで屋台を見ている。

気持ちが通い合うと、頭も心も晴れ渡り今までの景色が違って見えるようだ。

こんなに新鮮な気持ち、どれくらいぶりだろう。。。

大学入学までは、自慢じゃないが勉強ばかりしていて、恋などする余裕がなかった私。

大学の時、初めて好きだと思った相手は、10歳歳上の助教授だった。

半年間付き合い、結局大人な相手に旨く遊ばれただけの恋。

その後、バイト先で知り合った彼とは一般的な恋愛だったと思う。

楽しいこともたくさんあった。

最後はお互い忙しくなり、何かの歯車が狂いだしそのまま自然消滅。

はじめくんは真面目で女嫌いなところがあるって言ってたし、変なトラウマ植え付けないようにしてあげないとね。

どこか可愛らしい彼に、そんなことを考える私。




しばらく歩いていると、前から見覚えのある2人組が歩いてくる。

「はじめくん、あれ!」

「ああ、知っているが、なるべく目を合わすな。」

「なにゆえ?」

「何故でもだ。それは俺の口真似か?」

「うん!移っちゃった。だめ?」

「あ、愛らしいので許可する。////。」

「ありがとう!はじめくん♪」

ギュッとはじめくんにしがみつくと、一度足を止め肩の鞄を担ぎ直す。

「重い?大丈夫?」

「ああ、見た目だけで今日は中身は道着だけだ。重くはない。」

そう言うと、また私の手を引き歩き出す。




「よお!斎藤! 千歳ちゃん!まだいたのか?!」

「はじめくん、呼んでるよ!」

「 千歳、聞こえぬふりだ。」

「うん!///」

白々しく通り過ぎようとすると、

「おいおい、それは冷てぇんじゃないか? 千歳。」

( っ///// 出た!ホスト!/////)

空いている私の手首を捕まえてグイッと引っ張り、至近距離で顔を覗き込む左之さんに、条件反射で赤くなる私。

はじめくんと手を繋いでいるのを見た左之さんは、ニヤッと笑う。

「もうおまえのものってわけか?斎藤?」

「そういうことだ。 千歳にいらぬちょっかいを出すのはやめてもらおう。」

はじめくんが 千歳と口にするだけで、胸がキュンキュンする。

「ふ〜ん。今日のところは退散するか。 千歳、斎藤に泣かされたらいつでも来いよ。俺が慰めてやるからよ!」

ぽんと私の頭に手をのせると、

「左之!!! 千歳に触れるな!それに、俺は 千歳を泣かしたりなどせん!ゆえに 千歳がおまえのところへ慰めてもらいに行くことなど一生ない!!! 千歳のことは諦めろ!!!」

(はじめくんの 千歳4連発だ!ヤバイ/////)

思わず真っ赤になる私の顔を、マジマジと見る左之さん。

「おまえ、ほんとヤバイよな。斎藤、そろそろ連れて帰ったほうがいいぜ。家族連れがはけると何かと物騒になるからよぉ。」

バッと私の肩を掴み、左之さんから隠すように私の前に出るはじめくん。

「なに?私の顔なんかおかしいの?もしかして、汗でお化粧崩れてる?」

「いや、そうじゃねぇよ。おまえの顔がだなぁ。」

「左之!俺が説明しておく。行くぞ。 千歳。」

「は〜い♪ さよなら〜左之さん。」

「ああ、お大事にな。」




「はぁ。。。何がお大事になの?ねえ?はじめくん?何を説明するの?私ってヤバイの?土方さんって人もえらい女とか言ってたし、私ってなんかおかしいの?」

「おかしくはない。その逆で高月 千歳は色気があるとかいい女だという意味だ。。。と言っても信じんだろうが、な。」

「うん、ぜんぜんわかんない。」

「できれば、ずっと眼鏡をしていてほしいのだが、あれはあれで別の意味でヤバイやつもいるのだ。」

「思うんだけど、ヤバイって言葉ってニュアンス感が強過ぎてぜんぜんわかんないよ。もっとこうはっきりしてくんないと!」

「それは俺も同感だ。」

「でしょ〜!」

「ああ。ところで何か他にほしいものはあるか?」

「喉が渇いた。」

「では、あそこで飲み物を買って帰るか?」

「はじめくんは?お腹空かないの?」

「俺は社務所で夕飯を頂いた故、大丈夫だが、高月 千歳は腹が減ったか?」

「ううん。空いてないよ。」

「そうか。」

優しいはじめくんに、大事にされてる感が伝わってきて、幸せな気持ちが満タンだ。

2人でお茶を買って飲み、駅へと向かう。

帰りの電車はかなり混んでいて、ホームも満員だ。

「絶対に俺から離れないでくれ。」

「うん!」

お互いに確認してからギュッと手を繋いで歩くが、混み合っていて並んで歩けず、どうしても私が後から着い行く。

はじめくんは大きな鞄を持ちながら、器用に進んで行く。

満員電車ではお約束のように、密着度が高くて2人で真っ赤になる。

ギュッと詰め込まれガラスのドアを背にした私が押されないように、両手を私の両脇について守ってくれるはじめくん。

はじめくんの匂いに私のほうがくらくらしそうだ。

ぼ〜っとしてくる頭にはじめくんの声が聞こえる。

「一駅ごとに空くだろう。少し我慢してくれ。」

「うん、はじめくんがいてくれるから平気。」

電車がガタンと揺れ、ドッと人混みがこちらへ傾く。

「っっ!!! すまん!!! 」

あまりの重圧に耐え切れず、はじめくんの腕がガクッと折れる。

とたんに縮まる距離。

ガラスに両肘をつき立っているはじめくんにすっぽり包まれ、微妙な距離にお互いの胸が擦れ合う。

( ひゃ〜!こんなのあり?)

またガタンと電車が揺れ、足元がぐらつき足を開いて立つと、はじめくんの足が私の足の間に入ってる?!

「すまん!!! 千歳、悪気はない!!!/////」

「うん////////」

時々太腿にはじめくんの足が当たり、たまらない気持ちにギュッと目を瞑りドキドキを我慢する。

(このままはじめくんにギュッと抱き付けたらいいのに。)

本能という名の悪魔が訴える。

(公衆の場でダメだよ。)

理性という名の天使が邪魔をする。

思わずはじめくんを見上げ、目が離せなくなる。

何かに耐えるように眉根に皺を寄せ、グッと歯を食いしばり、熱を孕んだ強い瞳で私を見下ろすその顔に、ゾクゾクとしたものが私の全身を這い上がる。

(はじめくん、顔ヤバイよ!)

みんなの言うヤバイの意味が理解できたような気がする。

(ダメ。キスしたくなってくる!)

「 千歳、下を向いていろ。頼む。」

そう言って、歯を食いしばるはじめくんの言葉に素直に従うが、微妙に触れ合う部分にどうしても敏感になる。

( はじめくんもきっと同じ気持ちなんだ。)

そう思うと、嬉しいように恥ずかしいような。。。

甘く擽ったい時間を乗せて、満員電車は駅へと進む。
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