風花の間
□苦手なタイプ【中】
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ぜんぜん落ち着いてくれない頭と心で、うろうろしていると、斎藤くんが近づいてくる。
「先ほどからやはりあんたは変だ。うろうろするから余計に落ち着かないのではないか?一度座って考えろ。」
そういうと、私の手を引いて自分の横に座らせる。
彼と手を繋ぐと、さっきまでぐちゃぐちゃだった頭に中がなぜか治まっていく。
斎藤くんの手の温もりが、、、こんなにも嬉しい。
この温もりを離したくないと、、、こんなにも願う。
静まる頭と素直になる心。
彼の気持ちに応えよう。
迷うこと、恐れることなんて、何もない。
そう思い斎藤くんの横顔を眺めていると、
ドッドォーン!!!!! パチパチィィィ〜〜〜。。。。。
爆音と共に夜空に咲いた大きな打ち上げ花火。
2人で顔を見合わせ微笑み合う。
「始まったな。今からでも庭園の方へ行くか?」
「ううん。ここでいい。ここで斎藤くんと2人で見たい。」
そう言って彼の手をキュッと握ると、びくっとする斎藤くん。
(え?そこ驚くところか?)
また上がる花火を見上げる斎藤くんの顔を、そっと盗み見る。
暗くても分かるその端正な顔立ちに、ぼ〜っといつまで眺めていたくなる。
きりりと閉じられた唇はどんな声で私の名を呼ぶのだろう。
(あ、そういえば、何度か 千歳って言ってたっけ?
いつもはあんたか高月先生だよね。)
そんなことを考えていると、私の視線に気付いた斎藤くんが紅い顔でこっちを見た。
「そ、その、さっきから何故俺の顔ばかり見ているのだ///// せっかくの花火だが、あんたが気に入らんのなら帰ってもよいのだが。。。」
「ううん。花火も見たいし、斎藤くんの顔も見てたいの。」
じっと見つめてそう言うと、紅い顔のまま正面を向いてしまう。
また、ドドーンと打ち上がる花火。
今度は斎藤くんが落ち着かないようにそわそわし始めて、
「そんなにじっと見ていられると、今度は俺が落ち着かん。あんたも花火を見ろ!」
くすっと笑って、
「は〜い♪」
斎藤くんの腕にギュッとしがみついた。
「っ!!!!!!/////////」
(また耳まで真っ赤になってるんだろうな。)
くすっと笑うと、
「からかっているのか?」
低く冷たい声が聞こえる。
離れて見上げると紅い顔だけど、真剣な目をした斎藤くんが、真っ直ぐにこっちを見ていた。
こういう私の曖昧な態度が、斎藤くんをチクチク傷つけてきたのだろう。
いつも真っ直ぐなその瞳が、その心が、どこか苦手と思っていたのは、私の濁った心のせい。
自分も真っ直ぐになって受け入れれば、それは至福の喜びと変わる。
私は斎藤くんを真っ直ぐに見つめて、素直な心で向き合い、言葉を紡ぐ。
「斎藤くん、、、私の我儘ってわかってるけど、少しだけ聞いていてほしいの。
今まで講師だから生徒だからって、自分の我儘で斎藤くんを傷つけて振り回してたね。
ごめんなさい!
今日だって!じっと待ってなかった私がいけなかったのはわかるけど、、、私はそういう女だよ。
きっと静かな斎藤くんには賑やかに感じると思うし、今日みたいに斎藤くんを困らせると思う。
すぐに意地悪したくなるし、性格だってひねくれてるよ。
素直じゃないし!歳だけ食ってて、ぜんぜん大人じゃない!
それでもね、、、今日いろいろあって、わかった。。。
私、斎藤くんが好きだよ。大好き!
さっきは好きって気持ちが溢れて止まんなくて焦った。
そのくらい好き。
こんな私でよかったら、私を斎藤くんの彼女にしてくれませんか?
っていうか、してください!」
途中で花火の爆音が響き、大きな声を精一杯張り上げた。
(大声で告白って。。。)
しばらくして、また花火がドーンと打ち上がる。
途中から俯き加減で固まったままの斎藤くんに、私の心臓が早鐘を打つ。
だんだん彼の言葉を待つのが怖くなってくる。
(やっぱりいっぱい意地悪したし、さっきだって嘘ついちゃったし、考え直してんのかな。。。
あ〜、ダメだ。きっと明日から顔見たら泣いちゃう。
違う意味で一週間耐えないといけないかも。。。
健全な男子高校生を弄んだ天罰は、甘んじて受けます!
大丈夫!泣き過ぎても涙が枯れないことは自分の身体で立証済み。
哀しくてもそれを力に変えて生きていける根性が備わっているのも経験済み。
乙女チックにメソメソする柄じゃない。
家に帰れば、じーちゃんが送ってくれた地酒【大和魂】がまだまだ残ってる!)
そんなことを取り留めもなく考えていると、いきなりばっと抱きしめられる。
斎藤くんの匂いが鼻を擽る。
(ああ〜、斎藤くんの匂いも温度も全部好き。)
「いいのか?あんたをもらって。」
「うん!できれば返品、交換しないで頂けるといいんだけど。。。」
「返品も交換もせん!今すぐ直ちに俺のものだと背中に貼り付けて、誰の目にも触れぬように包んで持ち帰りたいくらいだ!」
「くすっ。なに?、それ。」
「他の男に見せたくないと、今日のあんたを見ていると思うのだ。」
「浴衣姿の女なんていっぱいいるよ。」
「他の女など、どうでもいい。俺の目に映るのは、あんただけなのだからな。」
「あんたは嫌だな。」
「!!!では、、、なんと呼べば良いのだ//////」
「名前にする?」
「うっ! い、いきなりそれは、、、どうかと思うが。。。」
「私はいいよ。それに、左之さんも新八さんも、いきなり名前呼びだったし。けど、斎藤くんが嫌ならなんでもいいよ。高月先生でも構わないよ。」
「高月先生と呼ぶのも、変化がないように思うが。。。」
「じゃあ、どうする?」
しばらく悩んだ挙句、斎藤くんの出した答えは、
「高月 千歳にする。」
「あはははは!もう、斎藤くんおもしろすぎ!!!!!!!!」
「何故笑う!あんたはなんでもいいと言っていたではないか!」
「あはは!言ったよ。言ったけど!フルネームって!あはは!お腹痛い!!!!!!!!」
「ならば、あんたは、ずっと斎藤くんと呼ぶのか?」
「え?私は〜、はじめくんにする。いいですか?はじめくん?」
「//////// あんたは、やはり可愛い過ぎるのだ。その顔でその声で俺の名を呼ぶのは反則技だ!」
そういうと彼の唇が荒々しく、私の唇を塞ぐ。
何度も角度を変えてぶつかるようなキスに、最初はされるがままになっていたが、自分の舌で彼の唇をペロッっと舐めると、同じように私の唇をペロッっと舐め返す。
そのまま彼の口腔に舌を入れて、彼の舌を探し出し、絡め取り、吸い上げる。
「っふ!!!」
はじめくんの口から甘い吐息が漏れるのを聞いて、なぜかとっても淫乱な気分になる。
深くなったキスを一度終われせると、名残惜しそうに糸を引き離れるはじめくんの唇。
「はじめくん、大好き。」
そう言い、彼の唇にチュッと軽いキスを落とす。
「はじめくんのお返しほしい!ください!」
そう言うと、嬉しそうに
「俺も心から好いている。高月 千歳。」
ぷっと吹き出すと、
「やはり、おかしいな。早く名前で呼べるよう努力する。」
「でもさあ、今日何度か呼んでたよ。 千歳って。」
「あれは、咄嗟にというか、不可抗力なのでカウントはなしだ。」
「ええ〜、なんで〜!まあ、楽しいからはじめくんの思うようにでいいよ。無理ならあんたでも構わないし、強制しないから。」
「あ、ありがとう。 千歳」
「わ!嬉しい♪ はじめくん大好き!チュッ♪」
ほっぺにキスすると、真っ赤になるはじめくん。
(ほんと、かわいい!食べちゃいたい!!! ダメダメ。とりあえずお祭り!)