風花の間

□苦手なタイプ【中】
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私の手首をギュッと掴み、無言でどんどん歩いて行く斎藤くん。

(怒ってる?でも、なんで私が怒られなきゃいけないんだ?)

しばらく引っ張られ歩きながら考えて、

「ねぇ、斎藤くん!ちょっと痛い!」

そう訴えると、

「す、すまない。」

私の手をパッと離し歩き出す。

まだ機嫌が悪いのか、こちらを見ようとしない斎藤くんの袖を引っ張りこちらを向かせると、真っ赤になった顔が見えた。

「どうしたの?顔真っ赤だよ?」

「な、なんでもない!これは、、、さ、先ほど走ったせいだ!」

「先ほどって、私を探してた時のこと?ずいぶん前だよね?」

「っう!!!!!」

またも、無言で歩き出す彼。

(なんか拗ねちゃってる。)



ずんずん歩いて行く斎藤くんの背中を見ながら、ここは私が大人になるかと思い、彼の手をそっと握る。

ハッと驚いて私を見る斎藤くんに、

「また逸れると大変だから。ね?」

と笑いかけると、斎藤くんは耳まで真っ赤になった。

(やっぱかわゆい♪)



鳥居まで来ると、今度はお社の方へ歩き出す斎藤くんに、

「ねぇ、どこ行くの?」

「あ、すまない。あんたを探しに行くときに荷物が邪魔になった故、社務所に預けてある。悪いが一緒に取りに行ってもらいたい。
もう、あんたを一人にしたくないのでな。」

「なにそれ?また私が迷子になると思ってんの?」

「違う!あんたには自覚というものがないのか?すれ違う男があんたを振り返るということを。今回は声をかけられただけで、何もなかったからよかったけれども、何かあってからでは遅いのだぞ!」

「誘ったのはそっちでしょ?それにその言葉、そっくりそのまま斎藤くんに返すよ!すれ違う女の人みんな、斎藤くんを振り返り見てるよ!」

「俺は一応気付いて対処している。あんたはそうではないだろう。自分のその姿がどれだけ男を虜にするか、わかっているのか?」

「そんな人聞きの悪い。虜になんかしてないし。。。」

「否!現に左之や総司に言い寄られていた。」

「あれはホストだから、だれにでもでしょ?」

「はぁぁぁ〜。。。」

また大きなため息をついて、私の手を引き歩き出す斎藤くん。

「私だってわざわざ一人でお祭りなんて来ないよ。。。」

(なんで、喧嘩してるんだろう。)

混乱してわからなくなり、泣きそうになる。

私を探してくれてるときの斎藤くんは、とても頼もしくて胸がキュンってしたのに、必ず見つける!とか言いながら素通りだよ。素通り。。。

「はぁぁぁ〜。。。そんなに違うのかなぁ。いつもがあまりにも酷いってことか。。。」

独り言のようにボソっと口にする。

「いや。普段のあんたの私服は可愛らしく好感が持てる。
塾ではスーツを着こなし、何というかその、女性らしく思う。
今日は、その、浴衣も髪飾りも、と、とても似合っている。あんたのためにあつらえたようで、まるでお伽噺の中から抜け出したように妖艶で、う、美しいと思う。
そ、その、すぐに気付けなくてすまなかった。」

「//////////」

あまりの褒め言葉に何も言えなくなる。

(ここまで褒められると、逆に恐い。。。)

「さ、斎藤くんのほうが、剣道の形の演武のときなんて時代劇の武士みたいでとってもカッコよかったよ。。。モテるんだね。。。私なんか相手にしなくても、年相応の可愛い女の子いくらでも選べるじゃん。。。雪村とかさ。。。」

「雪村は幼馴染でそういう対象ではない。どちらかというと妹といったところだ。それに俺がほしいのはあんたであって、他がいくら選べてもなんの意味もない。違うか?」

(なんで私に振るんだ?私に!)

「いや、違わないんだろうけど、ですね。。。
面と向かって、そこまではっきりほしいとか言われましても、困るというか。。。恥ずかしいというか。。。//////」

「っ!!!!!!!/////////」

口ごもる私に、一瞬にして耳まで真っ赤になる斎藤くん。

(無自覚なのは、そっちじゃん!)




そこで斎藤くんが、急に手をパッと離す。

気付くと社務所はすぐそこで、辺りは暗くなりかけているが、社務所の前に人影が見える。

「斎藤先輩!」

可愛い声が聞こえるほうを見ると、浴衣姿の雪村が手を振っていた。

「おお、斎藤か。おまえ、他の奴等を見なかったか?」

隣にいる浴衣姿の色男がそういうと、

「左之と新八、総司は庭園近くの屋台のほうで会いました。そちらを見回っているようでしたが、平助以下他の面々とは会っていません。」

業務文章のようにスラスラ〜っと真顔で答える斎藤くん。

(あれは見回っているというのだろうか。。。)

「そうか。ちゃんと見回ってるならいいんだがな。 ん?そちらさんは、おまえの連れか?」

「は、はい///」

色男と目が合いが、軽く会釈をすると、

「ほぉ〜、こりゃあまた、おまえ、えらい女連れてんな。これが今日の勝利の女神ってぇとこか。しかし、あいつらに会って何ともなかったのか?」

「い、いえ。それは、その。。。」

歯切れの悪い斎藤くんの返事に、ニヤリと笑う色男が私のほうに向き直り、

「俺は、土方歳三。薄桜高校の古典教師だ。こいつらの道場の副館長もしている。
あんたが会った左之や新八、総司も同じ高校と道場のもんでな。たぶん真面目な斎藤をからかって、あんたにも嫌な思いをさしちまったんだろう。申し訳ねぇ。
根はいい奴等なんだがな、どうもふざけが過ぎる面があってなぁ。
これに懲りず斎藤をよろしく頼む。」

「あ、いえ、はあ。。。
あ、申し遅れました。私、高月 千歳と申します。斎藤くんとはご近所で、いろいろと仲良くさせて頂いております。道場の皆様にも嫌な思いなどしておりません。少し驚いただけでして、、、お気にして頂くようなことはございません。」

そう言って微笑むと、土方さんはぽりぽりと頭をかきながら、

「そうか。。。//// ならいいんだ。千鶴、俺たちも見回ってくるか。」

そう言って、雪村のほうを見た。

私も連れられて雪村を見ると、クリクリの目がニコニコ微笑み私を真っ直ぐに見ている。

(か!かわいい!!!!!)

「薄桜高校2年、雪村千鶴です。斎藤先輩とは実家が近くて、いろいろお世話になってます。よろしくお願いします。」

「いえ!こちらこそいろいろごめんなさい。よろしくお願いします。」

「???????」

雪村って呼び捨てだったし、斎藤くんとの仲を疑ったりした自分が申し訳なくて、つい謝ってしまうが、なんの事だかわからない雪村さんは目をクリクリさせて首を傾げている。

(小動物系だよ!マジかわゆい♪)

「じゃあな、斎藤。長居し過ぎず、しっかり送れよ。」

「斎藤先輩、高月さん、さようなら。」

並んで歩き出す2人に一礼をする斎藤くん。

彼が頭をあげると、目が合いがニコリと微笑み合う。

「平助以外には会ってしまったな。」

「やっぱり内緒だったの?」

「隠すつもりなら初めから誘ってなどいない。あんたを見せたい気持ち半分、隠しておきたい気持ち半分。。。といったところだ。」

「どんなところだ?ちっともわかんないし。。。」

そんな私にふっと笑い

「荷物を取ってくる。ここの玄関で待っていてくれ。」

「は〜い。」

優しく微笑み、私の頭をぽんぽんと押さえてから中へ入る斎藤くんに、愛しい気持ちが込み上げる。

一人になるのが嫌というか、片時も離れたくないというか。。。

胸がギュッと苦しくなって、思わず浴衣の胸元を押さえ目を閉じる。

ダダダッと駆け寄る足音に目を開けると、斎藤くんが大きな鞄を肩にかけ心配そうに立っていて、

「どうした?どこか痛むのか?」

私の顔を覗き込み、近づく距離にふわっと彼の匂いがした。

また胸が苦しくて、斎藤くんにギュッと抱きつきたい衝動に駆られる。

(耐えろ! 千歳!)

自分を一喝し、気持ちを誤魔化してふにゃっと笑い、

「タバコ吸いたい。。。」

そう呟くと

「はあ〜、あまり心配させないでくれ。。。」

また大きなため息をつく斎藤くんだった。






待ち合わせ場所だったお社横の休憩所で、タバコを吸う。

20時から花火が庭園であるため、この辺りは人影もまばらだ。

休憩所の椅子に座り待っていてくれる斎藤くん。





(ああ〜、どうしよう。気づいちゃった。私、好きだ。斎藤くんがものすごく好きだ!////)




今まで立場上気づかなかったけど、きっと好きだったんだろう。

けど今日の彼の姿に、私を思ってくれている気持ちに、周りの人の言葉に、酷く嬉しい自分がいる。

猪突猛進形の私は、気付いた気持ちを押さえるのが苦手だ。

講師と生徒の間はそういうふうに考えられないと、斎藤くんの気持ちを突っぱねたのは私で。。。

彼の気持ちを考えると、私がここでこのスタンスを崩すことはどうかと思う。

(今日を無事に乗り越えれば、後は一週間。塾でしか会わないようにすれば大丈夫だ!)


落ち着きなくうろうろしながら、タバコを吸う私に、

「どうしたのだ。先ほどからそわそわしているが?
っ!!! そ、その、あそこだ。/////」

斎藤くんが指差す先は、トイレ。。。

「ち、違うよ!そうじゃない!!!!!!」

「ならば、どうしたのだ?」

「うっ、それは。。。。。やっぱりトイレってことで。」

「??? ここにいる故、一人で大丈夫だな。」

「なに?一人じゃ大丈夫じゃないって言ったら、一緒に行ってくれるの〜?」

「なっ!!!!! そういう意味ではない!!!////」

ぷっと膨れる斎藤くんに、

「うそうそ、冗談だよ。そんなところもすっ!」

「す?」

「す?すっきりだね?」

「すっきり?とは?」

「あはは〜。行ってくるねぇ〜。」

(あっ、危ない!思わず好きって言っちゃうとこだった。)

トイレに向かいながら、嫌な汗が流れる。

もう今日は調子悪いとか言って帰ろうかと思う自分と、もっと斎藤くんと一緒にいたいと思う自分。

(精神分裂症なりそうです。。。)

手を洗い鏡を見て、少し化粧を直す。

(私のほうが大人なんだから!頑張れ! 千歳!)

鏡の中の自分に言い聞かせ、斎藤くんの元へ戻る。

今度は隣に座り、

「もう一本吸っていい?落ち着いたら行く。」

「ああ、構わない。」

優しく弧を描く唇を、じっと見てしまい、

「俺の顔に何か付いているのか?」

「ち、違うけど、違わないかな?」

「どこだ?取ってくれぬか?」

「い、いや!絶対、ムリ!」

「っ!!! では俺も行ってくる。」

ぺちゃ耳仔犬モードでトイレに向かう斎藤くんに、心の中で謝る。

(何やってるんだろう。。。私。)

今まで辛いことがあっても、一人で哀しくなっても、真っ直ぐに自分の気持ちに正直に生きてきたつもりだ。

そんな私を応援して足長おじさんになってくれた塾長。

なのに、大人のプライドに上手くコントロールできない感情で、大好きな斎藤くんをチクチク傷つけている。

何もかも真っ直ぐにいく世の中じゃないのはわかってるけど、自分で自分の大切なものを傷つけるのは違うと思う。

塾長の奥さんの言葉を思い出す。





“私は彼の生徒だったの。大好きだったから勉強も頑張れたし、彼の教科で満点取れたら告白しようって決めててね。それが思ったより早く取れちゃったから、どうしようかと思ったけど勇気を出して告白したら、即OK!講師も人間って言ってたわ。自分の気持ちに嘘は付けないって。それからすぐに家に挨拶に来てくれて、反対する父に毎日挨拶に来たの。父のほうが根負けして、希望通りの進路に進みちゃんと卒業することを前提に高校卒業後、結婚したの。”





私の場合、私が斎藤くんのお母さんを説得すればいいのか?

それほど遠くないって言ってたから、毎日挨拶に通えるだろうけど。

いやいや、別に結婚がどうとかまで考えなくていいの?

え?どうなの?あああ〜!わかんないっっっ!!!!!



また一人でうろうろしていると、戻ってくる斎藤くん。

やっぱりシュンとした姿に、私の胸がチクリと痛む。

「何も、付いていなかったが。。。」

「ご、ごめんなさい。」

「なぜ嘘をつく。俺と2人になるのが嫌、なのか。。。」

「違うよ!ちょっと混乱してて、落ち着きます。ちょっと時間ください。」

「??? わかった。大丈夫か???」

至近距離で蒼い瞳が真っ直ぐに覗き込む。

「だ!大丈夫!大丈夫じゃないけど、ぜんぜん大丈夫!」

「?????落ち着いたら、一緒に屋台を少し見てから帰ろう。」

「うん!!!」

また私の頭をぽんぽんと押さえる斎藤くん。

(意外と大きな手。背の高さだってキスするのに調度いいくらいだし。//////ってまた一人で何考えてんのよ!)
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