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Re:短編小説
まなか
[ID:shiroikotori]
投稿がたくさん……!
嬉しい! 感激です。これからもよろしくお願いします。
* * * * *
余命三ヶ月。
カレンダーがまた一枚剥がれ落ち、天国との距離が一か月分縮まったと知っても、特別な感慨はなかった。
海に臨む病院の、遥か水平線を見渡せる窓は開け放たれて、おぎろなる海原に波ぼぼかす潮の薫りを、風が運び込んでくる。
窓枠に手を付いて身を乗り出すと、陽光が髪を撫でた。
静かだ。
波音と鳥の鳴き声だけが耳孔を騒がせる。それ以外は。
耳に手を当てた。平たく、襞の付いたそれは貝のよう。この耳にも、潮騒を閉じ込めておければいいのに。
全てが、夢の中から眺めていることのようだった。
ひろい広い海の前にいると、生きている実感が薄れてくる。自分という生が酷くちっぽけな物だと感じさせてくれる。それの死だって別に特別なことじゃない、小さなこと。
水平線は、この世で一番遠い。追っても辿り付けないことを知っている。
病室に時計はなかった。秒針の奏でる規則正しい音が、死へのカウントダウンに聞こえるから。
死にたいわけじゃ、けしてない。でも生きたいとも思わない。
十の時からの病だ。みんなより早く死ぬのだと知っていた。ずっと覚悟してきた。
だから平気だ。
――海は広い。
ずっと、あの水平線まで漂っていきたいと思っていた。今も。
耳に潮の音が響いていた。
あの海には、無数の命が生きている。
風が髪を梳いた。
死んで、灰になったら、海に撒いてもらおう。
そうしたら、あの水平線で、空と触れ合うことができるだろうか。
* * * * *
私は、死んだあと、あんな冷たく狭い骨壷の中に入るなんて絶っ対嫌です。
意味のさっぱりな経を延々と読まれ線香臭くなって墓石に閉じ込められるなんてごめんです。
死んだらそのときは無宗教で葬式を挙げてもらって、灰は森か海に撒いてもらおうと思ってます。
そうしたら私は、もう私という存在としてではないけれど、そこに生きる生命たちの一部としてまた生きられます。
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