V小説。

□院内恋愛2。
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「はぁい、タクミくん、お熱測るよぉ」

「マミちゃん、お腹痛いの治ったぁ??」

「シンヤくんは昨日もらったお薬、ちゃんと飲めたかなぁ??」

ここは、LuLu総合病院、小児科病棟。

今は朝の回診中。

俺はいつものように子供たちに笑顔を振りまきながら、一人一人に優しく声をかけてゆく。

「よぉしジュンヤくん、今日は注射泣かなくて偉かったなぁ。」

そう言って、幼い少年の頭を撫でてやる。

今日の回診はこの子で最後だ。

「お疲れ様でしたっ」

病室を出た所で、付き添いのナースがペコリとあいさつする。

「あぁ、お疲れっ」

俺は適当に応えて、そのまま、ある場所へと向かった。

「まだ終わってねぇよな…」

小さく、独り言を呟きながら、時計を確認し、せかせかと足早に俺が向かった先は、内科病棟。

「昨日あの時間であそこにいたから今日もたぶんあの部屋あたりに…」

そう、ここへくればアイツに会える。

ここ最近の俺の日課。

俺の唯一の楽しみ。

俺の原動力。

精神科の変態ドクターに「恋」という病名を突き付けられた日から、

どぉやらその通りらしい俺の病気は、日増しに悪化の一途を辿ってる。

奴は今日もちゃんとそこにいた。

「河村さぁん、朝ごはんはちゃんと食べられましたかぁ??」

内科病棟の407号室から天使の声が聞こえる。

俺は廊下の隅で待ち伏せる。

ここに居たらもうすぐ今日も天使の笑顔に会える。

そのためだけに急いで自分の所の回診を済ませてきたのだから…

トントン。

その時、突然誰かに肩を叩かれた。

「Yu―ki先生??」

不気味なほどに深みのある重低音で名前を呼ばれる。

振り返るまでもなく、こんな声の持ち主はこの病院に一人しか居ない。

「院長っ…」

そこに威厳たっぷりで立っていたのは、LuLu総合病院の院長、たあだ。

「内科なんかで何をしているのです??もう子供たちの回診は済んだのですか??」

院長のくせに敬語で俺に尋ねてくるのが嫌みったらしい。

「えぇ、まぁ。ちょっとあの、内科に用事があったもので…」

「用事??どんな用事です??」

明らかに怪しまれている雰囲気だ。やっぱり俺はこの人が好きになれない。若いくせにわざとグレーに髪染めてるし、目力怖いし、白衣血まみれだし…

子供が泣くから辞めてほしいとつくづく思う。

「いや、たいした用事でもないんですけど、戒斗先生にちょっと…」

本当は用事なんてないし、ただ俺の可愛い戒斗さんをひと目拝みに来ただけなんだけど、そんなこと院長に言えるわけない。

「それは奇遇ですねぇ。私も戒斗先生にお話があって来たんです。あ、今終わったみたいですね」

院長の言葉にふと廊下の先に目をやると、確かにそこに、天使がいる。

ナースと何やら楽しげにお喋りしながら、こっちに向かって歩いてくる。

ナースの方が先に院長の姿に気付いて、深々と頭を下げた。

「院長っ!!」

天使もこっちに気付いてパタパタと小走りで駆け寄ってきた。

なんて愛らしいんだろう。

そのまま俺の腕に飛び込んできてくれたらいいのに…

「こらこら、医者が廊下を走ったらダメだろ??」

院長の低い声が俺の妄想を遮る。

「あ、ごめんなさいっ」

「仕方のない奴だな。そんなことより、今夜も………」

院長が、天使の耳元で何か言ってる。

戒斗先生は、何やら恥ずかしそうに俯いてる。

「い、いんちょっ…こんなとこでその話はっ…」

顔をほんのり赤らめて慌ててる戒斗先生に、

その話ってどの話だょっ!!と、問いただしてやりたい気持ちを、必死に抑える俺。

「では、院長室で待っていますよ。……愛してるっ…」

再び戒斗先生の耳元で囁いた院長の言葉に、俺の思考が一旦停止する。

確かに今、小さく聞こえたっ…

あっ、愛してるってっ…

この人、一体何を言ってるんだろう…

「あ、そういえば、小児科のYu-ki先生が、あなたに用事だそぉですょ」

「えっ??」

動揺を隠せない様子の戒斗先生が、初めて俺の方を見た。

院長は、絶望に打ちひしがれてる俺に、勝ち誇ったよぉな視線を送り、

戒斗先生の額に軽くキスを落とすと、白衣を翻して颯爽と去って行った。

「あのっ…ごめんなさぃっ…今のは、あのっ、気にしないでくださぃっ…」

慌ててる戒斗先生が可愛ぃ。

でも俺は何も言えない。

初めてまともに会話できる機会を、よりによってあの院長に与えられたかと思うと、悔しくてたまらなぃ。

「あのっ、Yu-ki先生…ですょね??俺に何か??」

「何でも…なぃですっ…」

俺はそう言い残し、天使に背を向けて廊下を駆け抜けた。

俺の恋は、

あっさり破れたっ…





続く。

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