V小説。

□びじゅある保育園(ありす)
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慌てて靴を履き替えてたら、靴箱の中に、何か入ってるのを見つけた。

僕の上履きの上に、紙切れが置いてある。

なんだろう…

不思議な気持ちでその紙を開いてみる。

何か書いてある。

お手紙みたいだ。

「さがくんへ。
きょう、かえりのかいのあとで、いっしょにあそぼう。とら。」

うわぁ!!

どぉしよう…

虎くんからだっ…

虎くんから、お手紙だっ…

帰りの会の後に、一緒に遊ぼうって書いてある。

人違いかなって思ったけど、

でもちゃんと「さがくんへ」って書いてある。

僕は、またなんだか心臓がキューッてなって、ドキドキした。

嬉しいはずなのに、それよりも、どぉしようって気持ちの方が強い。

でもとりあえず、教室に戻らなきゃ!!

Nao先生が心配しちゃう…

帰りの会の間も、僕はずっと、虎くんからのお手紙を、ポッケの中で握りしめながら、

虎くんの方ばっかり見てた。

遠くから見てるだけで、こんなにドキドキしちゃうのに、

ちゃんとお話できるかな…

お友達になれるかな…

だけど、なんで虎くんは急に、僕なんかと遊ぼうって言ってくれたんだろう…

「虎くんバイバーイ!!Nao先生もバイバーイ!!」

「はぁい、ヒロトくんと将くん、また明日ねっ」

「先生さよぉならっ」

「はぃ、さよぅならっ」

ボーッとしてたら、いつのまにかみんながポツポツ帰り始めてた。

将くんとヒロトくんも、お手々を繋いで、仲良く帰って行った。

お外では、お迎えに来たお母さんたちがおしゃべりしてる。

僕のママは、いつもお仕事が遅いから、

みんなが帰った後も、真っ暗になるまで、いつも教室でNao先生と遊んでる。

誰もいない時には、特別にNao先生がお膝に乗っけてくれるんだ。

僕は、みんなみたいに、早くおうちに帰れたらいいのになとも思うけど、

でもNao先生のお膝で、絵本を読んでもらうのも大好き。

でも、今日はいつもと違う…

独りぼっちじゃないんだ…

虎くんが、一緒に遊んでくれるんだ…

そう思ったら、またドキドキが止まらない。

1人、また1人と、お母さんに連れられて、みんながおうちに帰ってく。

お母さんたちがおしゃべりしている間に、お外で遊んでる子たちもいる。

Nao先生も、みんなのお母さんたちと、楽しそうにおしゃべりしてる。

気が付いたら、教室の中には、僕と虎くんだけになっていた。

虎くんが、僕の方に近付いてくる。

なんでか分かんないけど、右手を後ろに隠してる。

虎くんが、すぐ目の前まで来た時、僕は、どんな顔をしたらいいのか分からなくなって、下を向いてしまった。

「お手紙読んだ??」

虎くんに言われて、僕はコクンと頷いた。

「俺の母ちゃんも、いつも帰りが遅いんだ…」

「そぅ…なんだ…」

もっとちゃんとお話しなきゃって思うけど、うまくしゃべれない。

だって、虎くんと2人きりでお話するのなんて、初めてだ。

どんな風にしゃべったらいいか分からない。

「いつもは母ちゃんの仕事が終わるまで、将の家で遊んでんの」

そぅか…

だから虎くんはいつも、将くんのママと一緒に帰ってくんだ…

「でも…今日は…なんで…」

なんで今日は将くんたちと一緒に帰らないの??って聞こうとしたのに、やっぱりうまくしゃべれない…

「沙我くんと、遊びたいなって思ったから」

「僕と??」

「うん」

「どぉして??」

「どぉしても。嫌??」

「嫌じゃない!!…すごくっ…全然っ…えっとっ…あのっ……嫌なんかじゃない!!」

「あははっ」

虎くんが笑った。

きっと、僕があんまり急に大きな声を出したから、おかしかったんだ…

また、頬っぺたが熱くなる。

「やっぱり可愛いっ」

「え??」

かわいい??

今、虎くん、可愛いって言った??僕のこと…

「これ、沙我くんにあげるっ」

虎くんは、ずっと背中に隠してた手を、僕の方に差し出した。

その手には、虎くんの飛行機が握られてる。

「ひこーき…いぃの??」

「うん。沙我くんにあげたいのっ」

あんなにみんなに大人気だった虎くんの飛行機。

他の誰の子のより、高く、遠くまで飛ぶ、虎くんの飛行機。

それを、虎くんは僕に…

嬉しすぎて、僕は飛行機を受け取ったまま、しばらくジッと眺めてしまった。

「いらなかったら、捨ててもいいよ」

「ううんっ!!いる!!すごくいる!!あ、あり…がとっ…」

僕は、嬉しいよってゆぅのを、必死に伝えようとして、また声が大きくなってしまった。

「沙我くんは、やっぱり可愛いっ」

「えっ…えっ…」

こんなことを言われた時、なんて答えたらいいんだろうって、

必死に考えたけど分からなくて、

僕が困っていると、虎くんがまた笑った。

そして…

ギュッ。

いきなり、抱きしめられた。

僕は、頭が真っ白になる。

「と、虎くんっ!?…どしたの??」

ちゅっ。

「っ!!」

頬っぺたに、柔らかいものが当たった。

虎くんにチューされたんだって気付くまで、少し時間がかかった。

「将がいつもヒロトにしてるの見て、羨ましかったんだ、俺っ」

「え??」

確かに、将くんが「ヒロト大好きー」とか「ヒロト可愛いー」とか言いながら、頬っぺにチューしてるのは、僕も見たことがあるけど、

でも…

「俺も、沙我くんにしたいなぁって思いながら見てたの」

「虎くん…」

「将は、ヒロトのことが好きなんだって。ヒロトも将が好きなんだってさ…」

「そぅ…なんだっ…」

好き…

その「好き」は、Nao先生が言ってたみたいな、

こんな風にドキドキしちゃうみたいな、

僕が虎くんのこと考えてる時の気持ちみたいな、

そんな「好き」なのかな…

やっぱり、男の子でも男の子のこと好きでいいのかなぁ…

「沙我くんは、誰が好き??」

「えっ…と…分かんなぃ…」

ホントは、分かんなくなんてない。

僕は、たぶん、虎くんが好きなんだ…

でも、そんなこと、虎くんの前じゃ、恥ずかしくて言えない。

「俺は、沙我が好き」

「…っ!!」

いきなり呼び捨てにされたことにも驚いたけど、

それよりも、虎くんの言葉が信じられなくて、

何かの聞き間違いじゃないかなって、

でも確かに今、虎くんは僕が好きって言ったし、

もぅ、何が何だか分からない。

「俺は、沙我が好きなんだけどなっ…」

僕が黙ってるから、虎くんがもう1回、同じことを言った。

虎くんの頬っぺたも、少し赤くなってる。

虎くんも、ドキドキしてるのかなぁ…

僕と同じなのかなぁ…

どぉしよぅ…

僕も虎くんが好きだよって伝えなきゃ。

えっと、えっと…

ちゅっ。

物凄く恥ずかしかったけど、

虎くんがしてくれたみたいに、僕も虎くんの頬っぺたにチュッてしてみた。

「さっ…がく…」

「僕も…僕も虎くんが…好き…」

上手く声が出せなかったけど、何とか言えた。

恥ずかしくて、虎くんの顔を見れずにいると、

また、虎くんが僕を抱きしめる。

そして…

ちゅっ。

今度は、お口にチューされた。

どぉしよぉ…

虎くんと、本物のチューをしちゃった…

「沙我、大好きっ」

虎くんが、そう言いながら、僕のこと、ギューッてする。

「これからは、毎日俺と遊ぼうなっ」

「うんっ」

「飛行機作るの教えてあげる」

「うんっ」

「お団子作るのも教えてなっ」

「うんっ」

それから僕らは、ママが迎えに来るまで、2人でいっぱい遊んだ。

虎くんは、将くんと一緒には帰らなくなって、

毎日僕と遊んでくれた。

虎くんのおかげで、僕にもお友達がいっぱいできた。

みんなには、秘密だけどね、

虎くんと、約束したんだ。

「おおきくなったら、結婚しよぉね」って。

ずっとずーっと一緒だよって、指切りしたんだ。

だから毎日僕は、ホントに虎くんと結婚できますよぉにって、

神様に、お願いしてるんだっ…


おしまい。
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