純長編小説1。

□第2章。
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「え、だってそんなドラマみたいな話ってある?普通」
「それがあったんだってば!私もなんか信じられなかったけど・・・」
「かっこよかったの?」
「うーん、かっこいいっていうよりも、好青年って感じかな。すごくキレイな目えしてて、ロマンチストだった」
「へえ、いいなあ、そういう甘酸っぱい出会い。ねえ、ちょっと聞いた?まあ君!」
「いっ・・・てえな、叩くなよ。ちゃんと聞いてるし。てか、まあ君はもうやめろって何度も・・・」
「そのうち運命の再会とかあるかもだよ、雫」
「どうかなあ、叔父さんちの近くなんて、あんまり行くことないしなあ。たぶんもう会えないと思うよ」
「ええ、もったいない!でも名前分かってんでしょ?」
「うん。でも名前しか知らないし」
 雫は学校にいた。潤に会った夜から二日が経ち、昨日の葬儀も無事に終えて、雫はいつも通り登校していた。この高校の2年3組の生徒である雫には、同じクラスに上里茜という親友がいた。軽く巻かれたふわっとした髪が肩にかかり、きりっとした顔立ちが印象的な、おしゃれで、しっかり者で、笑顔が可愛い女の子だった。
「だーかーらー、俺の話を・・・おい、茜!」
 雫と茜の隣で一人不機嫌そうな表情を浮かべて立っているのは、3年5組の藍島雅紀だ。これでも二人より一つ年上で、茜の恋人だった。茜と雅紀は付き合い始めてからもうすぐ一年が経つけれど、未だに友達の延長のような交際を続けている。
「ねえ、まあ君さ、そろそろ自分のクラス戻った方がいいんじゃない?授業始まっちゃうよ」
 茜が雅紀ではなく時計を見ながら言った。
「ああ、そうだな」
 雅紀は浮かない顔をして廊下を歩き出したが、すぐに立ち止まり振り返った。
「茜?」
「ん?」
 茜はやっとまともに雅紀の目を見た。
「好きだよ」
 人が行き交う廊下の真ん中で、突然そう言った雅紀に、雫は目を見開く。
「はいはい。まあ君の『好きだよ』はもう聞き飽きた」
 口ではそう言いつつも茜の口元が一瞬緩んだのを雫は見逃さなかった。
「ねえ、雅紀って呼んで。それが嫌なら先輩でもいいからさ。呼んでくれるまで俺、ここ離れないよ?」
「じゃあずっとそこにいればいいでしょ?まあ君が廊下に突っ立ってたって、私別に困らないし」
 茜はいつも雅紀の一歩先を行く。それでも茜は雅紀のことを確かに愛しているんだということを、雫は知っていた。
「ちょっ、そういうこと言うなよな。そんなこと言うと俺、授業サボってこっからずっと茜のこと見てるよ?」
「そんなことしてたらストーカーだよ。もう、いつまでもくだらないことばっか言ってないで、早く教室戻んなよ」
「じゃあ雅紀って呼んで」
 雅紀がなかなか引こうとしないのを見て、茜は諦めたように溜め息を一つついた。
「好きだよ、雅紀」
 茜が仕方ないなあ、とばかりに口にしたその言葉は、決して軽いものではなくて、ちゃんとした本音だと雫は思った。
「よっしゃあー!じゃあな、茜。雫もまたね」
 雅紀はそう言い残し、始業のチャイムが鳴り響く中、満面の笑みで階段を駆け上がっていった。
「どうしようもないね、まあ君は」
 茜は雅紀の姿が見えなくなった後、心底呆れた声で言った。しかし茜の笑った顔に、そんな雅紀だからこそ愛しいんだと書いてあった。
「でもさあ、私も聞き飽きるくらい言われてみたいな。好きって」
 そう言いながら、雫の中で響いている声はやはり青山潤の声だった。
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