V小説。

□閉ざされた箱の中の秘め事
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「今日、何時までかかると思う??」

「まぁ、余裕で朝までだろぅなっ」

「だよねぇ…明日俺取材なんだけどなぁ…帰らない方がいいかなぁ…帰ったら爆睡しちゃいそうだしなぁ…」

俺の隣で、咲人がそう言ってあくびをした。

始めから、俺に助言を求める気なんてなくて、要は、独り言のようなものだということを知ってるから、俺も「少しでも寝た方がいいぞ」とか、余計なことは言わない。

こういう何気ない会話に関わらず、曲作りの話でも、俺らの会話はいつもこんな感じだ。

お互いに、相談らしいことをすることはあっても、最終的には、自分の好きなようにする。

お互い、自分の中に描いた世界観を、相手の助言によって曲げたりはしない。

それでも、誉められたりすると気分がいいから、何となく「どう思う??」なんて聞いてしまったりする。

そんな、付かず離れずな関係を、10年間、ずっと続けてきた。

「今回もいいのできそうだね」

「どぅだろな。まぁ、ゾジの演技力次第だろっ」

「あはは。確かに。」

今俺らは、新曲のPVの撮影中。

今回の撮影場所は、廃ビル。

こういう設定の場合、スタジオにそれっぽい雰囲気を作り出して撮影することもできないでもないのだが、

実際に古びたビルを探して貸してもらう方が、コストもかからないし、何よりてっとり早い。

そんなわけで、現在時刻は深夜1時。

今にも幽霊が出そうなオンボロビルで、俺らはひたすら撮影に励んでいる。

と、言っても、今回のPVはゾジーを主人公にした、ドラマ仕立ての、ストーリー性のあるものに仕上がる予定で、

よって、他4人より、ゾジーのカットがやたらと多い。

今もゾジーはソロカットの真っ最中。

遊び相手がいなくて手持ちぶさたになった俺が、フラッと屋上へ上がってみた所で、

この空き時間、2人で何やら楽しそうに盛り上がってる柩と新弥の会話に入ってくのがためらわれたらしい咲人と、バッタリ出くわしたというわけだ。

「うー寒っ!!」

そう言って、咲人がブルッと震えた。

屋上なんかに来てみた所で、この寒さではそんなに長い時間は潰せない。

まぁ、中に入ったって、暖房設備もなければ壁も薄いから、電気ストーブの前で縮こまってるしかないわけだが、

それでもこれ以上寒空の下に居たら凍えてしまいそうなので、一服だけして俺らは早々に屋上を後にした。

そして、今こうして、2人並んでエレベーターを待ってる。

が、、、

「遅ぇなっ…」

俺は、目の前のエレベーターの階数表示のランプを見つめながら言った。

「遅いですね…」

咲人も、ポケットに手を突っ込んで、寒さに肩を震わせながら言う。

「▼」のボタンは確かに光っているのに、いっこうにエレベーターが上がって来ない。

スタッフが機材の運び込みかなんかをしているのかなとも思ったが、それにしても遅いので、俺は、もう1度ボタンを強く押してみた。

ギュイーン、ガシャガシャ、ガッシャン!!

「えっ…何この音…」

「あ、でも動いてるっ」

咲人の言葉で、再び階数表示に目をやると、確かにエレベーターが上がって来ていた。

そしてやがて、俺らのいる屋上を示す「R」の表示が点灯した。

ガシャ、ガシャコン。

ひときわ大きな音を立ててエレベーターが止まり、ゆっくりと扉が開く。

「おいおい、大丈夫かよ…」

「なんか、さすが廃ビルって感じ」


そんなことをぼやきながら、俺らはエレベーターに乗り込み、撮影が行われている、3階のボタンを押した。

扉が閉まって、エレベーターが、例によって凄い音を立てながら動き出す。

異変が起こったのは、その直後だった。
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