V小説。

□新弥くんの恋人(第3話)
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「今週の金曜日??」

「あぁ、どぉやら夕方には仕事終わるっぽくて、次の日の仕事も夜だけだからさ。だいぶゆっくりできると思うんだけど」

「金曜かぁ…」

「都合悪い??」

「ぃや、全然会いには行けるんだけどね、どぉしても出なきゃな講義が6限にあって、ちょっと遅くなっちゃうかも…」

「何時くらぃ??」

「んー、急いで行っても9時とか…。ごめんね、新弥さんの為なら俺、そんなんサボッて会いに行きたいんだけどね、その教授の講義だけは、単位がヤバいのっ」

「じゃあ、俺がそっち行くか??」

「え?!」

「俺がオマエの部屋に行ったっていぃだろ??」

「ぅん、それは全然良いけど…」

「よし、決まり。その講義は何時に終わんの??」

「えっと、7時半」

「じゃあ7時半に学校の前に車止めて待ってっから」

「………ぅん」




俺が初めて那月の部屋に足を踏み入れることになった経緯は、

3日前の、電話でのそんな会話が発端だった。

付き合い始めた当初は、那月が学生ならではの単語を口にするたびに、違和感と少しの背徳感があって気持ちがソワソワしたものだが、さすがに半年も付き合ってると慣れてくる。

俺は、瑠樺さんに秘密の特別授業を受けたあの時から、無事那月の可愛い喘ぎ声を聞くことができるようになっているし、

那月も、すっかり俺に対してよそよそしい敬語を使うこともなくなった。

俺らが会うとなると、たいていアイツが俺のスケジュールに合わせてくれることがほとんどで、

俺の仕事が終わる頃を見計らって、アイツが東京へ出てきて、俺が仕事帰りに車で拾って帰るか、そのまま飲みに行ってホテルに入ってしまうかのどちらかだった。

だから、俺にも那月にも、俺の方から横浜に出向くという発想がなく、

意外にも、俺が那月の部屋に行くのは、これが初めてとなる。

「すっごいボロアパートだけどいぃの??狭いし、汚いけど大丈夫??」

大学から那月の部屋に向かう途中、那月は何度も不安そうに俺に問いかけてきた。

「気にしねぇよ、俺だって上京したての頃に住んでた部屋、ヒドかったしっ」

しかし、那月の部屋に足を踏み入れてみて、俺が度肝を抜いたのは、部屋の狭さや汚さなんかではなかった。

むしろ、想像していたよりもずっと広々していたし、掃除も、整理整頓も、独り暮らしの男子学生とは思えないほど、きちんとしていた。

が、、、

「おぃおぃ、何だよコレ…」

「キャーやだやだ、あんまり変なとこ見ないでね??昨日必死で掃除したから、すごく適当になっちゃって…」

「いや、そぅじゃなくて、何だよこの壁っ!!」

「へ??」

那月は、何がおかしいのか分からないという顔をしている。

だが、俺の目には、どう考えたっておかしいとしか思えない光景が映ってる。

「いくらなんでも、やりすぎだろ!!」

ポスターに写真、雑誌の切り抜き、トレカ、ツアータオルにツアーバッグ…

那月の部屋の壁一面には、数々のナイトメアグッズが張り巡らされている。

所々に、赤いバンドのも見受けられる。

写真やトレカに関しては、すべて俺限定。

「まるでストーカーの部屋だな…バンギャだって、ここまでする奴なかなかいねぇだろ…」

「うわぁヒドーイ!!ストーカーなんかじゃないもん!!好きだからいつも近くに感じていたいの!!常に眺めていたいの!!」

「その考え方がストーカーなんだよ…」

「でもでも、愛されてるって感じ、するでしょ??」

「そぅだな、怖いくらぃに…」

「もぅ!!意地悪っ…」

そんな会話をしつつ、さりげなく部屋を観察してみると、

コスプレ衣装や大量のBL本などが、隠す気もないような場所に置かれている。

部屋の隅には、一目で安物と分かるベースも立て掛けてある。

「オマエ、こんなベース使ってんのか??」

「え、やっぱり安いやつじゃだめ??」

「ぃや、ダメとは言わねぇけど…」

「ホントはね、新弥さんモデルの青いベース欲しいんだけどね、高くて買えないんだもんっ…」

「あれはオマエに似合わねぇだろっ!!」

「またそぉゆぅヒドイこと言ぅーっ!!似合わなくっても新弥さんとお揃いにしたぃの!!」

「だって青だぞ??ロリータ衣装であのベース弾いてたら、いっそ笑えるぞ??」

「だってぇ…」

那月は、悲しそうな表情で俯いてしまった。

俺は、コイツのこの顔に弱い。

「今度、俺が昔使ってたやつ、やるよ。オマエが持っても可笑しくないやつがあるから。どぉせ俺はもぅ使わねぇし」

「えっ!?いぃのっ!!」

那月は、パァーっと花咲くような笑顔を見せた。

「俺とお揃いより、俺のお下がりの方が貴重だぞ??」

「ぅんっ!!やったぁ!!ありがとっ!!にゃん様大好きぃーっ!!」

そぅ言って、那月は俺の首に手を回して抱き付いてきた。

香水を付けてるわけでもないのに、コイツはいつも、いい匂いがする。

女の子に対してそんな風に思うのなら頷けるが、男のくせに、なんで体臭がいい匂いなのか、不思議で仕方ない。

俺は、そっと那月の体を抱き寄せて、腰の辺りに手を置き、体を密着させる。

「にぃ…やさっ…」

「ん??」

「やぁっ///…新弥さん…当たって…」

「何が??」

コイツと一緒に居るだけで、

コイツの笑顔を見るだけで、

俺の体は那月を求めて反応する。

それを知らしめるように、俺は那月の体に、腰を撫で付ける。

「新弥さんのっ…硬いのっ…当たるっ…」

那月は、恥じらいながらも、興奮を隠せない様子で、俺の肩に顔を埋める。

俺は、那月の腰に置いていた手を、そっと下への移動させる。

この日の那月フリフリのスカート姿ではなく、普通にジーンズを履いていた。

まぁ、学校帰りなんだから当然だが、メンズ服を着ていても、十分女の子に間違えられるようなルックスだから余計に、スカートじゃないのが少し残念だ。

「んっ…新弥さんっ…」

服の上から、俺に体を撫で回されながら、那月はキスを求めるように、俺の顔を見上げて少し背伸びした。

俺は、求められるままに、唇を重ねる。

チュッチュと、わざと音を立てながら、だんだんと深く、舌を絡め合い、俺らはそのまま、ベッドに横になった。

マットレスが薄く、少し固かったが、那月を抱きしめた時と同じ匂いのするベッドだった。

キスしたまま、俺は那月の服を脱がせ、那月も俺のシャツのボタンを外していく。

ピンポーン!!

突然玄関のチャイムが鳴ったのはその時だった。

「おぃ、誰か来たぞっ」

「いぃよ。居留守しよっ」

那月は、少しだけ玄関の方を気にした様子だが、すぐにまた俺の服を脱がしにかかった。

ピンポーン!!ピンポンピポピポピンポーン!!

「出た方がいぃんじゃね??」

「んーもぅっ!!」

チャイムをこんな風に乱暴に連打するってことは、おそらくコイツの知り合いなんだろう。

那月は、あからさまに煩わしいと言わんばかりに、ゆっくりと起き上がり、服を着直して玄関へ向かった。

ガチャリ。

「ほらやっぱり居るじゃん!!オマエこんな時間から寝てたのか??」

「なっちゃん、ボクお腹すいたーっ!!なんか作ってぇー」

「俺もーっ!!」

「てかさぁ、頼んどいた歌詞出来てる??」

玄関のドアが開くのと、ドタドタというたくさんの足音がこちらに向かってくる気配を感じるのと、ほぼ同時だった。

俺は、ベッドの上から動けない。

「ちょっ!!待て待て!!そっちの部屋入るな!!あー!!ダメ!!」

「なんだよ、またエロビデオでも見てたのか??また緊縛モノか??…って…え??」

「ヅッキーは緊縛モノ好きだからねぇ♪良かったら俺にも貸すんだぞ!!って…うわぁーっ!!」

「だから入るなって!!今日は帰れってば!!」

那月が必死で喚いてるのが耳に入った次の瞬間には、俺の視界に知らない若者たちがいた。

俺は、反射的にはだけた胸元を隠す。

「え、何々??何があんの??」

「うわぁーっ!!新弥だぁーっ!!」

「嘘ぉ!!えっ!!マジで新弥じゃん!!」

「はぁ??本物っ!?」

「バカ!!偽者なわけあるかよ!!」

「キャー、新弥がなっちゃんのベッドにぃーっ!!」

身長も体格もキャラクターもバラバラの男3名とどっちか良く分かんねぇ奴1名が、俺の姿を見て好き勝手に驚いている。

那月の友達なんだろうということは理解ができたが、このガキ共に、揃いも揃って呼び捨てにされるのは気に食わない。

「あのさぁ!!なんで君たちは人の部屋に押し掛ける前に1本の電話もできないわけっ?!俺にだってプライバシーってもんが…」

「おぃどぉする??とりあえずサイン100枚くらいもらっとくか??」

「それ学校で売ったらスタジオ代稼げるかな??」

「てか新弥って、素でもまんま新弥なんだねぇ…ウケるっww」

「あのぉ、ニーハオって言ってくださぁい!!」

ここまで失礼な奴らだと、もはや怒る気力も湧いてこない。

最近の若い奴らはみんなこんななのかっ…

「あーもぅっ!!これだからみんなには会わせたくなかったのに…とりあえず新弥さんから離れて!!全員そこに並んで座って!!」

那月は、面倒くさそうに4人を俺の向かい側に座らせて、溜め息を付きながら俺の隣に腰を下ろした。
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