V小説。
□びじゅある保育園(ありす)
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《沙我くんの初恋》
「うわぁ!!虎くんのすごい!!カッコ良い!!」
「ホントだっ!!すげぇ!!でも俺のもスゴいんだぜ!!」
「うん、ヒロトのも可愛いー♪」
「ちげぇよ!!可愛いんじゃないの!!めちゃくちゃ強いの!!」
工作の時間。
今日は、みんなで飛行機を作って、飛ばして遊ぶんだって。
いつものことだけど、教室には、ヒロトくんの元気な声がやけに響いてる。
ヒロトくんは、いつもいつも、将くんと仲良しで、
いつもいつも、一緒に遊んでる。
虎くんも、将くんとちっちゃい頃からの仲良しだから、3人はいつも一緒。
僕はいつも1人ぼっちだから、ちょっとうらやましい。
「みんな上手にできたねぇ!!虎くんのも、ヒロトくんのも、将くんのも、すごくカッコ良いよ!!」
Nao先生が、3人の飛行機を見て、優しく笑ってる。
僕は、自分の飛行機をじっくり眺めてみた。
厚紙を切るのも、組み立てるのも、色を塗るのも失敗しちゃって、すごくカッコ悪い。
こんなんじゃ、きっと先生も誉めてくれないし、みんなにも笑われちゃう。
虎くんだって、きっと笑う。
「よぉし!!じゃあお外に出て、みんなで飛行機飛ばしてみようかっ!!」
先生がそう言うと、みんないっせいに教室を飛び出して行った。
「虎くんのには負けないかんなっ!!」
「俺だって、ヒロトなんかに負けねぇよ!!」
廊下から、そんな声が聞こえる。
どぉしよぉ…
僕は、1人教室に取り残されて、自分で作った飛行機を見つめる。
こんなの、全然飛ばないに決まってる。
きっと、バカにされる。
虎くんにも笑われちゃう。
他の子たちにバカにされるのは我慢できるけど、
どぉしても、虎くんにだけは、笑われたりしたくない。
なんでこんな風に思うのか分からないけど、
虎くんだけは、他の子と違うんだ。
なんでだろぅ…
「沙我くんっ」
ビクッ!!
「どぉしたの??赤い顔して…お熱あるの??それとも好きな子のことでも考えてたの??」
Nao先生が、優しい声で、僕に言った。
僕は、フルフルと、首を横に振った。
「あら、素敵な飛行機できたねぇ♪みんなと一緒に飛ばしに行かないの??」
「だって…」
「ほら、お外はいいお天気ですよぉー。みんなと一緒に遊ぼ!!ね!!」
みんなの所に行くのは、ホントはちょっと怖かったけど、
先生に背中を押されて、僕は飛行機片手に、お外に出た。
お外では、みんなが集まって、輪ができていた。
その輪の真ん中にいるのは、、、
「虎くん…」
まただ。
虎くんを見ると、いつも僕は、なんだか変な気持ちになる。
なんだか、心臓がキューッてなる。
「虎ぁ!!早く飛ばせよぉ!!」
「待てよ。翼の微調整が大事なんだからっ」
「早く早く〜!!」
「よし、行くぞ。えいっ!!」
そう言って、虎くんが飛行機を飛ばした。
「うわぁ〜!!」
みんなが空を見上げながら、騒ぎ出す。
僕も、虎くんの飛行機に目が釘付けになる。
すごく高くまで、遠くまで、まっすぐに飛んでる。
すごい。
「すげぇすげぇ!!」
「虎くん次俺にも貸して〜!!」
「じゃあその次僕にも〜!!」
「虎ぁ、俺の飛行機改造してぇ!!」
やっぱり、虎くんはすごいんだ。
みんなの人気者だし、何でもできる。
僕は、また顔が赤くなってるような気がして、手で頬っぺたを触った。
さっきNao先生に言われたことを思い出す。
『好きな子のことでも考えてたの??』
好きな子…
好きな子のことを考えると、こんな風になるのかな…
虎くんは、僕の「好きな子」なのかな…
でも、男の子の「好きな子」は、女の子じゃなきゃだめなんじゃないのかな…
男の子のこと、好きでもいいのかな…
今度、Nao先生に聞いてみようかな…
でも、恥ずかしいからやっぱり聞けない。
「将くん行くよーっ!!えいっ!!」
「わわわっ!!そんなとこに投げたら取れないよぉ!!」
「ダメだなぁ。俺はちゃんと取れるぜっ!!」
「じゃあ行くよヒロト!!えいっ!!」
「うわっ!!曲がるのとかズルいよバカー!!」
将くんとヒロトくんは、楽しそうに、飛行機でキャッチボールみたいなことして遊んでる。
2人ともいぃなぁ…
ヒロトくんはみんなのリーダーみたいな感じだし、将くんは女の子たちにモテモテだし、虎くんとも仲良しだし…
でも僕はいつも1人ぼっちだし、工作も、お絵かきも、お遊戯も、お歌も、遊具で遊ぶのだって下手くそで、全然だめだ…
僕は、試しに自分で作った飛行機を飛ばしてみた。
力いっぱい投げたのに、飛行機は僕のすぐ目の前で、くるって回ってストンって落ちちゃった。
こんなので遊んでもつまんないし、砂場でお団子でも作ろうかな…
お団子作りは、1人でも楽しいから、僕のお気に入りの遊び。
他のことは、全部下手くそだけど、
お団子だけは、僕の得意技。
砂場に移動して、もくもくとお団子作りに熱中してたら、すぐに時間が過ぎてった。
いつのまにか、薄暗くなってる。
「みんなー!!そろそろ中に入っておいでっ!!ちゃんとお手々洗ってねぇー」
Nao先生が呼ぶ声が聞こえた。
教室に戻らなきゃ。
僕は、泥んこで汚れた手を綺麗に洗ってから、みんなより少し遅れて、保育園の中に入った。