V小説。

□びじゅある保育園(ありす)
1ページ/2ページ

《沙我くんの初恋》

「うわぁ!!虎くんのすごい!!カッコ良い!!」

「ホントだっ!!すげぇ!!でも俺のもスゴいんだぜ!!」

「うん、ヒロトのも可愛いー♪」

「ちげぇよ!!可愛いんじゃないの!!めちゃくちゃ強いの!!」

工作の時間。

今日は、みんなで飛行機を作って、飛ばして遊ぶんだって。

いつものことだけど、教室には、ヒロトくんの元気な声がやけに響いてる。

ヒロトくんは、いつもいつも、将くんと仲良しで、

いつもいつも、一緒に遊んでる。

虎くんも、将くんとちっちゃい頃からの仲良しだから、3人はいつも一緒。

僕はいつも1人ぼっちだから、ちょっとうらやましい。

「みんな上手にできたねぇ!!虎くんのも、ヒロトくんのも、将くんのも、すごくカッコ良いよ!!」

Nao先生が、3人の飛行機を見て、優しく笑ってる。

僕は、自分の飛行機をじっくり眺めてみた。

厚紙を切るのも、組み立てるのも、色を塗るのも失敗しちゃって、すごくカッコ悪い。

こんなんじゃ、きっと先生も誉めてくれないし、みんなにも笑われちゃう。

虎くんだって、きっと笑う。

「よぉし!!じゃあお外に出て、みんなで飛行機飛ばしてみようかっ!!」

先生がそう言うと、みんないっせいに教室を飛び出して行った。

「虎くんのには負けないかんなっ!!」

「俺だって、ヒロトなんかに負けねぇよ!!」

廊下から、そんな声が聞こえる。

どぉしよぉ…

僕は、1人教室に取り残されて、自分で作った飛行機を見つめる。

こんなの、全然飛ばないに決まってる。

きっと、バカにされる。

虎くんにも笑われちゃう。

他の子たちにバカにされるのは我慢できるけど、

どぉしても、虎くんにだけは、笑われたりしたくない。

なんでこんな風に思うのか分からないけど、

虎くんだけは、他の子と違うんだ。

なんでだろぅ…

「沙我くんっ」

ビクッ!!

「どぉしたの??赤い顔して…お熱あるの??それとも好きな子のことでも考えてたの??」

Nao先生が、優しい声で、僕に言った。

僕は、フルフルと、首を横に振った。

「あら、素敵な飛行機できたねぇ♪みんなと一緒に飛ばしに行かないの??」

「だって…」

「ほら、お外はいいお天気ですよぉー。みんなと一緒に遊ぼ!!ね!!」

みんなの所に行くのは、ホントはちょっと怖かったけど、

先生に背中を押されて、僕は飛行機片手に、お外に出た。

お外では、みんなが集まって、輪ができていた。

その輪の真ん中にいるのは、、、

「虎くん…」

まただ。

虎くんを見ると、いつも僕は、なんだか変な気持ちになる。

なんだか、心臓がキューッてなる。

「虎ぁ!!早く飛ばせよぉ!!」

「待てよ。翼の微調整が大事なんだからっ」

「早く早く〜!!」

「よし、行くぞ。えいっ!!」

そう言って、虎くんが飛行機を飛ばした。

「うわぁ〜!!」

みんなが空を見上げながら、騒ぎ出す。

僕も、虎くんの飛行機に目が釘付けになる。

すごく高くまで、遠くまで、まっすぐに飛んでる。

すごい。

「すげぇすげぇ!!」

「虎くん次俺にも貸して〜!!」

「じゃあその次僕にも〜!!」

「虎ぁ、俺の飛行機改造してぇ!!」

やっぱり、虎くんはすごいんだ。

みんなの人気者だし、何でもできる。

僕は、また顔が赤くなってるような気がして、手で頬っぺたを触った。

さっきNao先生に言われたことを思い出す。

『好きな子のことでも考えてたの??』

好きな子…

好きな子のことを考えると、こんな風になるのかな…

虎くんは、僕の「好きな子」なのかな…

でも、男の子の「好きな子」は、女の子じゃなきゃだめなんじゃないのかな…

男の子のこと、好きでもいいのかな…

今度、Nao先生に聞いてみようかな…

でも、恥ずかしいからやっぱり聞けない。

「将くん行くよーっ!!えいっ!!」

「わわわっ!!そんなとこに投げたら取れないよぉ!!」

「ダメだなぁ。俺はちゃんと取れるぜっ!!」

「じゃあ行くよヒロト!!えいっ!!」

「うわっ!!曲がるのとかズルいよバカー!!」

将くんとヒロトくんは、楽しそうに、飛行機でキャッチボールみたいなことして遊んでる。

2人ともいぃなぁ…

ヒロトくんはみんなのリーダーみたいな感じだし、将くんは女の子たちにモテモテだし、虎くんとも仲良しだし…

でも僕はいつも1人ぼっちだし、工作も、お絵かきも、お遊戯も、お歌も、遊具で遊ぶのだって下手くそで、全然だめだ…

僕は、試しに自分で作った飛行機を飛ばしてみた。

力いっぱい投げたのに、飛行機は僕のすぐ目の前で、くるって回ってストンって落ちちゃった。

こんなので遊んでもつまんないし、砂場でお団子でも作ろうかな…

お団子作りは、1人でも楽しいから、僕のお気に入りの遊び。

他のことは、全部下手くそだけど、

お団子だけは、僕の得意技。

砂場に移動して、もくもくとお団子作りに熱中してたら、すぐに時間が過ぎてった。

いつのまにか、薄暗くなってる。

「みんなー!!そろそろ中に入っておいでっ!!ちゃんとお手々洗ってねぇー」

Nao先生が呼ぶ声が聞こえた。

教室に戻らなきゃ。

僕は、泥んこで汚れた手を綺麗に洗ってから、みんなより少し遅れて、保育園の中に入った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ