オリジナル小説。

□龍巳と真次。
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「ねぇ真次!俺あれ欲しいっ!」
「あれ?オマエ女みたいなモン欲しがるんだな」
「分かってないなぁ。真次に取ってもらってプレゼントされることに意味があるんじゃんっ!ゲーセンデートのお決まりパターンでしょっ!」
 龍巳はそう言って屈託なく笑った。
「ゲーセン乗り気じゃなかった奴がよく言うよな…」
 俺がそう言っても、龍巳は隣でニコニコとご機嫌の表情だ。なんつーか…狡い。コイツが笑う度に俺は心臓に一撃を喰らう。一体何発打ち込めば気が済むんだろう。いつか俺を殺す気だろうか…
 そんなことを考えながら、俺はUFOキャッチャーの機械に、100円玉を投入し、龍巳が欲しがったぬいぐるみに狙いを定める。
「1回で取れたら俺、真次のこと惚れ直すっ!!」
「惚れ直すどころか、尊敬さしてやるよ」
 今までの経験上、UFOキャッチャーは得意な方だ。見た感じもそんなに難しくもなさそうだし、まあ、きっと余裕なはず。慎重に操作し、神経を目標物である黒猫のぬいぐるみに集中させる。
「すごいすごいっ!いけるんじゃないこれっ!!」
 龍巳が俺のすぐ隣ではしゃぎ声を上げた。思わず視線をズラすと、そこに龍巳の満面の笑顔…弧を描く口元…やわらかそうな唇…
「あぁーっ!!」
 龍巳の声でハッとする。気付くと、ぬいぐるみはコロッと転がっただけで、USOキャッチャーのアームは虚しくもとの位置に戻っていった。
「惜しかったなぁ、もうちょいだったのにぃ…」
 龍巳はそう言って不満そうに唇を尖らせた。
「はいっ!もっかい!」
 龍巳に促され、俺は再び100円玉を入れる。気を取り直そうとしたが、あまりに近い距離でキャッキャとはしゃぐ龍巳に気を取られて集中力が続かず、また失敗した。
「しっかりしてよぉ、らしくないなぁ」
「分かってるよ!いいから黙って見てろ。次で取る」
 落ち着け、と自分に言い聞かせても、ふと隣を見るとそこに龍巳が居る。さらさらと流れるような髪、子犬のような大きな瞳、透き通るような肌、首筋、学ランの第二ボタンまで外した奥にのぞく鎖骨…結局俺はそこで、500円を無駄にした。
「もういいっ!あんな自信満々だったから期待してたのに、全然下手くそじゃん」
 そう言い放ち、不機嫌そうに俯いた龍巳に、俺は言い訳の言葉が見つからない。
「…ごめん」
 本当は、あの愛らしい猫のぬいぐるみを抱えて喜ぶ龍巳の顔が見たかったのに、そんな些細なことさえしてやれない自分が妙に悔しかった。
「プッ…ハハハッ…」
 急に龍巳が笑い声が響く。
「何マジメに落ち込んじゃってんの?今日はたまたま調子が出ねえ日なんだよ、とか言ってこなきゃ真次じゃないよっ!子供じゃないんだから、俺こんなことくらいで怒ったりしないよ?」
 明るく笑い飛ばす龍巳を見てたら、確かに自分がバカらしく思えた。そうだ、たかがゲーセンだ。
「うるせぇっ!別に落ち込んでねえし。だいたいいい年してあんなもん欲しがる方がガキじゃねぇかよっ!」
「うっわ、今ヒドいこと言ったぁっ。5回も失敗したくせに」
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