オリジナル小説。

□龍巳と真次。
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「真次ぃーっ!!ここだよっ!!」
 昇降口から出てくる真次の姿を確認して、俺は少し離れた場所から手を振った。
「龍巳…」
 真次の口が微かにそう動いた気がした。しんじは小走りで俺のところにやって来る。
「遅いよ。10分も待ったっ」
「だって担任の話長ぇんだもん。それよりオマエ、こんなとこで大声出すなよっ…」
 真次は、そう言いながら辺りを見回していた。誰一人、俺らのことを気にしてる奴なんかいない。いつもの放課後の風景だ。
「屋上で大声出してた奴に言われたくないね。別に誰も見てないってば」
「そりゃそうだけどっ…」
 真次は思いっきり意識しちゃってるのバレバレな顔で視線を泳がせた。こういうとこが可愛いなと思う。
「さっ、行こっ」
 俺がそう言って右手を差し出した。
「何だよその手は…」
「やっぱだめ?」
「ばっ…当たり前だろっ!!」
 真次は乱暴に言い放つと、カバンを担ぐようにして持ち直し、片手を制服のポケットに入れて、ツカツカと歩き出した。
「ははっ…照れてやんのーっ」
真次の背中に向かってそう言ってからかうと、真次はうっすらと顔を赤らめて振り返った。
「照れてねえよっ!!」
 まるで説得力がなくて、俺は思わず笑ってしまった。
「笑ってんじゃねぇよっ!!」
 反抗する真次が可愛くて、俺は無理矢理真次の腕を掴んで歩き出した。
 あの日から、俺たちは恋人同士になった。でも、それよりずっと前から、俺はアイツを愛してた。初めて会った日から、いつか自分のものにするんだと、心に決めていた。俺は女に興味がない。昔から、男の人しか愛せなかった。初恋は。保育園で同じ組だった男の子。小学校の頃は近所に住むお兄さん。中学の時は体育の教師に恋をした。でも、どれを取っても、真次に出会った時のような衝撃はなかったし、独占欲なんてものもなく、ただ遠くから見つめているだけの謙虚な恋だった。気持ちを伝えるなんて、出来る訳ないと思っていたし、何よりも嫌われることを恐れて何もできなかった。そんな臆病な俺を、真次が180度変えた。アイツのことを見ていると、ひどく体が疼いた。あの力強い腕で抱かれたい。広い胸に溺れたい。鋭い瞳で見つめられて、乱暴な唇に酔わせれたい。もう自分が傷付くことなんか恐れない。とにかく真次が欲しくて欲しくて堪らなかった。真次に犯される自分を想像しながら、俺は自慰を繰り返した。狂ってる。人は俺のことをそんな目で見るかもしれない。男に犯されたいと思う俺は、確かに狂ってる。でももうダメなんだ…この体は女なんて求めてない。真次しか欲しくない。こんな俺の愛は歪んでると思うか?それでも受け止めてくれるか?愛してくれるか?なぁ、真次…

「ねぇ、どっか行こっか。まだ帰りたくない」
「じゃあ、ゲーセン行きますかっ!!」
「えー、ゲーセン?」
「文句あるならどっこも行かない」
「分かったよ。そのかし真次の自転車ねっ!」
 俺たちはそんな会話を交わした後、真次の自転車に二人乗りして学校を出た。俺だって、ちゃんと自分の自転車はあるのに、わざと一台で行くという行為が、バカだなって思うけど、妙に嬉しかったりもする。俺たちの自転車とすれ違ってく人たちの誰一人として、俺らの関係を疑う奴などいないだろう。男子高生のニケツなんて、別に何も珍しい光景ではない。俺の目の前にある、俺より広くて逞しい背中…。俺はそこにガバッとしがみついた。
「ちょっ…おいっ!龍巳オマエ……急にビックリすんじゃねぇかよっ!事故ったらどうすんだよバカっ!てか恥ずかしいから離せって…」
 慌てふためいて、ぎこちない仕草で俺の腕を自分の体から離そうとする真次がおもしろい。
「真次の背中、好きなんだもんっ」
 俺はそう言って、真次の制服に顔を埋めて、回した腕に力を込める。
「やめろって!ほら、みんな変な目で見てるからぁ…」
「平気だよ」
「オマエが平気でも俺が平気じゃねぇんだよっ!」
「何?勃っちゃう?」
「ばっ!ちがっ…そういう問題じゃねぇよ!ほら、あそこのリーマン、めっちゃ嫌な顔してるし…」
 真次の言葉でふと見ると、仕事帰りか営業中かのサラリーマンと目が合い、気まずそうに逸らされた。何故だろう。男同士で自転車二人乗りしてたって、誰も目もくれないのに、こうして腕を回しただけで、何故そんなに汚いものを見るような目を向けられなきゃなんないんだろう…
「ねぇ、もしさ…」
「ん?」
「もし、ここに乗せてるのが女の子だとしても、真次、腕拒む?それとも、俺だから恥ずかしいの?」
 言ってしまってから、すぐに後悔した。わざわざ困らせるようなこと、何でしてしまうんだろう…
「…なわけねぇじゃんっ」
 真次が少し上ずった声色で否定する。
「オマエのこと恥ずかしいなんて思うわけねぇって。世界中に自慢して歩きたいくらいだよっ…てかその前に、女なんかぜってぇ乗せねえし。もうオマエ以外の奴なんて男だって乗せねえから安心しろ」
 真次のその言葉が本音であることは、背中から感じる体温が教えてくれた。顔は見えないけど、おそらく赤く染まっているに違いない。
「変なこと聞くんじゃねえよバーカっ」
 あきらかに照れ隠しだとバレバレな真次のそのセリフに、俺は思わず吹き出してしまう。
「……大好き」
 真次の背中に、そっと聞こえないくらい小さな声で、俺はそう囁いた。
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