novel

□アンラッキーデー
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「スザク機嫌いいな!」


ジノは廊下で見かけた同僚に声をかけた。目の前を歩いているスザクは、今にもスキップしそうな勢いだ。日頃は固く結ばれている唇が今や完全に反対の形になっている。というかこの聞こえてくる鼻歌は、まさかスザクが出所なのだろうか。ジノに気づいたスザクは、これまた珍しく微笑みをむけてきた。

うんうん。やっぱりスザクも学校に来たかったんだな。

ジノはそんなことを思いながらスザクに駆け寄った。


「スーザクッ!」


思いっきり、しかも廊下の真ん中で抱きついてもスザクは特に咎めることもなく、何か用か?と聞いてきた。それに調子に乗ったのかジノはスザクのふわふわした髪の毛に自分の顎を沈める。実はずっと前から狙っていたのだ。端から見ても正面からジノがスザクを抱きしめており、友人同士では有り得ない密着具合だ。偶然その場に居合わせてしまった他の生徒は、何かいけないものを見てしまった気になったが、ナイトオブラウンズならではの挨拶なのかもしれないと言い聞かせ足早に通り過ぎていた。
そしてその不運な生徒の1人、いや彼は廊下の角を曲がった瞬間に眼前に広がる異様な光景に気づき素早く踵を返したのだが、それを上回る速さでスザクが彼の名を呼んだ。


「ルルーシュ」


ぴたり、とルルーシュの足が止まる。止まらなければ良かったと思ったが、背中に突き刺さる視線に思わず体が硬直してしまったのだから仕方がない。しかし一瞬見えた限りでは体格の大きいジノが盾となりルルーシュの姿が捉えにくい状態だったはずなのに、なぜスザクはそんなに早く自分を見つけることができたのか。

というより、なぜこの俺がスザクに脅える日々を過ごさなければならないのだっ!

ルルーシュは諦めたように溜息をついてから、2人の方へと振り返った。


「ほえっ!?」

「ルルーシュ!無視なんてひどいじゃないか」


それよりどうしてスザクの顔が5センチ先にあるのかを聞きたい。近い。近いって!しかし半歩下がれば腰を掴まれ、状況が悪化しただけであった。


「こういうスキンシップは、そこにいるヴァインベルグ卿としていろ!」

「え?私、じゃなかった俺?」


ジノはさっき2人の居たの場所から振り返った。というより未だスザクを抱きしめていた格好のままなところを見ると、一体スザクはどんなスピードで抜け出してきたのだろうか。


「ねぇルルーシュ。顔色悪いけど大丈夫?」

「平気だ」


ルルーシュは即答した。嫌な予感がする。まさかジノのいる前で何かをしてくるとは思えない、というか思いたくないが、一刻も早く人通りの多いところに逃げなくては!先程の2人の怪しいやり取りのせいで休み時間の廊下なのにすっかり人が寄りつかなくなっていた。

……だいたいスザクとあの男はどういう関係なんだ?

実はずっと気になっていたルルーシュであった。確かにジノは誰に対してもスキンシップ好きではあるが、スザクへの触り方に邪なものを感じる。スザクのことをどうでもいいと言いながら、スザクのことをよく見てしまっている自分にルルーシュは気がついていなかった。


「ジノが気になるの?」

「そんなことはないが」

ルルーシュは無意識にジノを見つめていたらしい。ルルーシュにとってジノが気になる存在であるのは間違いないが、スザクにそんなことを言うはずもない。そんなことスザクも分かっているだろうに?
ルルーシュ的にはスザクが自分を疑っているからナイトオブラウンズであるジノを気にしているのか?と、問われたと思った。が、スザク的には全くそんなことは頭から飛んでいた。ただ目の前でルルーシュが他の男を見つめている。その事実が気に食わなくて出た言葉である。昔から意志の疎通ができているようで全くできていない2人だったが、それは現在も変わっていなかった。


「なぁなぁお二人さん〜。そろそろ次の授業始まるんじゃないか?」


ジノが近づいてくるとルルーシュはスザクから離れようと、スザクはルルーシュを引き寄せようと腰をつかんでいる力を強めた。結果は言わずもがなである。
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