novel
□祭典の後
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「アーニャ。スザクはー?」
「知らない」
「アイツ主役なんだろ、どこ行ってんだ?」
アーニャに尋ねてもスザクの居所が分からなかった俺は、その場で辺りを見渡してみた。
ダンスも参加してないみたいだし、どこにいるんだ?ブリタニアならおおよそ居所の検討をつけようもあるが、この学園では捜そうにも全くスザクの動向が掴めない。だからふと見上げた校舎の屋上に人影がちらついたのが見えたとき、スザクだと認識していいのかもあやふやだった。
「アーニャ、ちょっと行ってくるわ」
「どこに」
「うーん確認しに?」
「答えになってな…あ」
アーニャがよく分からないという表情で、っていうかいつもそうだけど、俺を見送っていた。
人影が見えたのはこの建物だから入口はここかなっと。つっても勝手に入って平気かな。まあ、大丈夫か。ラウンズだし。どんどん階段を上っていくと、すぐに屋上へと通じていそうな扉を見つけることができた。
「予感的中。おーいスザ…っと」
見えた背中は確かにスザクだったが、どうやら奥にはもう1人いるようだ。スザクの友達か?だったら話しかけるのは野暮ってもんだ。スザクが戻ったのは最近で、久しぶりの再会なんだろうから積もる話もあんだろう。仕方ない。アーニャと先に帰ってよう。俺は上がった階段をまた下ろうと体の向きを変えたとき、スザクの声が耳に響いた。
「ルルーシュ」
ルルーシュ?
聞こえた名前に思わず足を止めた。聞き覚えがある。というか…え、ルルーシュってあのルルーシュか?前にスザクが寝言で呟いていたのは、忘れようにも忘れられない記憶になっている。
スザクはそいつに夢中なのか、すぐ近くにいる俺の気配にまるで気づいていない様子で話を続けている。
「ルルーシュ。どうだった?」
「どうもなにも幼い声だったが、信頼できる総督なのか?」
「あぁ。とても信頼のおける方だよ」
次の総督の話をしているのか。つうか立ち聞きみたいになってるけど、いいのか俺。いやでもルルーシュ君の顔を見てみたいという気持ちもある。かといってこれ以上近づけば、さすがにスザクに見つかりそうだ。どうすっか。いっそ清々しく2人の前に出て、ちょっと挨拶して、帰った方が良い気がする。でもスザクを置いて行きづらくなりそうだ。
「ふーん良かったじゃないか。少しは日本も変わるといいな」
「そうするつもりだ」
迷っている間にも会話は進む。居心地が悪い。すっきり出ていってもいいのだが、どうも2人の雰囲気がおかしい。ギスギスしてるっつうか邪魔できない。
「まあ、がんばれよ」
「ああ」
「じゃあそろそろ下に戻らないか。名ばかりとはいったって、お前がいないと困るだろ」
ルルーシュ君の提案に俺は慌てた。やべっ。なんかこっち来る雰囲気じゃん。に、逃げるか。たぶん見つからずに行けるだろうと再び階段に足を下ろしたが、またしてもスザクの声で立ち止まることになった。
「待ってルルーシュ」
「っなんだ」
戸惑いを感じさせたのは、俺じゃなくてルルーシュ君の方だった。それも気になったけど、それよりスザク?
「君は本当に記憶が戻っていないのかい?」
「記憶?」
「消された記憶。本当に思い出してないの?それともまた俺に嘘をついてるの?」
スザクの様子がいつもと違う。ラウンズに来たばかりのときと似ているような気がするが、もっとなにか違う…。スザクの中に潜んでいる暗い部分が、表に出てきているような。
「消された?スザク。いきなり訳の分からないことを言い出すな」
ルルーシュ君も平静を装っているふうだが声が少し強張っている。
「俺とこんなことしてたことも忘れちゃったのかな」
スザクが動いたのと同時に、後ずさるもう一つの気配。やめろ。スザク駄目だ。そんなことしてもきっとお前の欲しい物は手に入らない。
スザクが扉の一枚向こうで何をしようとしているのか察せたし、明らかに怯えていそうなルルーシュを助けることもできた。だけど彼らの先行きを見守る前に、俺は階段を下りていた。
このまま帰りたい気分に襲われたが、アーニャを待たせているので置いていくわけにもいかず校庭に戻った。アーニャは俺が探す前に、俺の前に現れた。
「帰ろうぜ」
「スザクいなかったの?」
それに答えずに歩き出した俺を見て、アーニャは何も言わずに付いてきた。
「スザクってバカだよな」
「ジノもそう」
ぽつりと漏れた言葉に即答された。
「ひでぇな」
でも恋人の浮気現場というのか、そんな場面を見て何もできずに帰ってきたのは我ながら情けない。けど俺としてもただ逃げてきたわけじゃない。間に入れる隙がなかったっていうのもそうだけど、もしかしたら壊れてくれるかもしれない、と心の隅で思ってしまった。ルルーシュはどう考えたってスザクを避けていた。それを無理に追い詰めたって逃げられるだけだろう。
俺は最低だな。壊れるのは2人の関係じゃくて、スザクかもしれないのに。それでもルルーシュを忘れて、自分を見てくれるならそれもいい。なんて、もしかしてスザクも同じ考えか?
相手を壊してまで自分の物にしたいなんて、俺ら相当執念深い性格らしいな。それでもそれだけお前を愛してんだよ。
だからスザクがどれだけルルーシュを想っていようと、俺は大人しく引き下がったりはできねえよ。
fin
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