novel

□偽りの関係
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スザクががナイトオブラウンズになってから約一年。

『はじめまして。枢木スザクです』

無表情なヤツだな。それが最初の印象だった。
興味なら会う前から持っていた。エリア11の出身でここまでのし上がってきたという男。どんな強いヤツなのかワクワクして待っていた。
だけどスザクの戦いを見ていく内に、少しずつ表情が読めてくるようになっていく内に、何かを背負って生きていることが分かっていく内に、俺はスザクを好きになった。もっと内面に踏み込んでいきたくなった。

『なあ、スザク。俺と付き合ってみない?』

『え、どこに?』

なんてクールぶってくるせに天然な答えが返ってきたのはいい思い出だ。
それから初めこそ断られたものの、なんとか付き合うまでにこじつけることができた。それこそ舞い上がったね。アーニャにどんな手使ったの?とか、冷たい視線も気にしないくらい嬉しかった。

けどな、俺も鈍くない。スザクが俺を誰かの代わりにしてることなんて、すぐ分かった。いや、情けないかな。付き合いだすまで気づかなかったのは。




「なあスザク」

「なに?ジノ」

珍しく休みの重なった日。
俺の部屋を訪れていたスザクを後ろから抱きしめた。俺の好きなスザクのふわふわした髪の毛が顔にあたる。

「大好き」

ぎゅっと腕に力を入れると、スザクは口元を少し緩めて俺の手にスザクの手を重ねてきた。

「俺もだよ」

躊躇いもなく紡がれる言葉はとても甘い。けど俺を見てないだろ?完璧に隠してるつもりだろうけど、お前が俺に教えてくれたんだぜ。甘い言葉も、体も全部、俺じゃないルルーシュってヤツに向けられてるってことを。

初めて体を繋げた翌朝、俺は浮かれ気分で隣で寝てるスザクを見つめていた。まだ距離はあったけど、一応は俺のものになったスザクを眺めているのは幸せだった。でもその時だった。現実を突きつけられたのは。




『んん…』

『あ、スザク』

『…朝?』

『おはよう、スザク』

『あれ、珍しいね。ルルーシュが僕より早く起きてるなんて』

寝ぼけていた。完全に寝ぼけていたのだ。
たぶん、これは半ば直感だが男を受け入れたのは初めてだろうスザクは、軍で鍛えられているとはいえさすがに疲れていたんだろう。それはもうはっきりと違う男の名前を出してきた。それだけでも絶句したが、何よりそれ以上にスザクの表情だ。見たこともないような優しい瞳がそこにあった。出会った頃と比べると、だいぶ表情が出てきたとはいえ相変わらず口はきつく結ばれ、険しい顔のことが多い。なのに寝ぼけたスザクは、すごく優しい顔をしていた。




「ジノ。ジノ、どうした?」

と、俺は黙り込んでいたらしい。スザクが首を傾げてこっちを向いている。

「あ、わり。ちょっと考えごとしてた」

「考えごと?」

「そ。スザクのことー」

「わっ」

スザクの背中に体重をかけると、油断していたスザクは前によろけた。そのすきを狙って、ちょうど横にあった、まあ狙ったんだけどベッドに一緒に倒れ込んだ。

「なんだよ?」

「なんとなく」

「変なジノ」

腕の中でクスクスと押し殺したような笑いが聞こえる。感情をなるべく出さないように心がけているような。もっと色んな顔を見てみたい。それも確かに事実だけど。

「そういやスザク。この前の任務も大活躍だったそーじゃん」

「そうでもない。話を受け入れてもらえないのは悲しいよ」

「ふーん。そんなもんかねえ」

その割にそう聞こえないのは、感情を殺してるからなのか。それともそれが本心か。
前のお前がどんなんだったかも興味あるけど、でも今のお前もあながち本性から外れていないと思う。俺は最初から、潔癖症に見えるお前が時々見せる黒くて汚い部分に興味を持っていた。つまり、そのルルーシュってヤツにスザクの優しさを見せていたなら、俺にはその中にあるドロドロした所を見せてみろよ。

「ジノ今日はやけに静かなんだな」

「そうか?」

「そうだよ。さっきから急に黙り込んだり、本当に何かあったのか?」

心配そうに顔を上げてくるスザクに、微笑みを返すと怪訝そうに眉をひそめた。

「でもま、今のところスザクに関心持ってもらえるだけで俺としては合格点かな」

「何を言ってるんだ?」

「好きだよスザク。愛してる」

「ああ、俺も愛してるよ」

今は偽りの言葉でも、いつか心の底から言わせてやる。
これから時間はいくらでもあるんだから。

fin





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