なるとねためも

□雨音
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「雨音」サスケ×サクラ


炎天下の夏の真昼に生暖かい突風が体力を奪う。
見上げれば真青な空に高く白い綿雲がわきたちあがっている。それを見上げてサクラは呟いた。
「・・・おいしそう」
「はあ?」
反射的に振り返り、怪訝そうに表情を伺う。こいつ、頭沸いたんじゃねえか?
然しサクラは微笑み雲を見上げたまま続ける。
「綿菓子みたいで甘そう」
「・・・」
ますます眉間に皺を寄せてサクラを見る。
・・・蝉がうるさい。暑い。
何も言わずとサスケの表情の不機嫌さから伺え、サクラは苛立つ彼の反応に動じることなく綿菓子雲を見送る。
任務へと向かう今日の道行きは長い。
あまりの暑さに休憩を余儀なくされた二人は神社に居た。
涼を得ようと木陰に入り、御手水で口をすすぐが気休めにもならない。
「暑いな・・・。おい、お前ブッ倒れんなよ?さっきからワケわかんねえ事口走って・・・」
見るからに暑さでハイなサクラに半ばあきらめた口振りで吐き捨てる。
言葉が終わるか終わらないかで唐突に雷鳴が轟いた。
「きゃあーっ・・・!?」
頭を抱えるサクラの隣でサスケは空に翳り出す黒雲を眺め表情を和ませる。
「夕立か・・・これで少しは涼しくなるな・・・」
サクラは肩をすくめサスケの腕にしがみつき、顔を遠慮がちに胸元へ押し付けて隠した。
「・・・っ、おい!暑いだろうが、離れろよ」
「やだ、怖いよ」
涙声が震えて演技ではない事を知るとため息を吐くしかない。好きにさせて社の軒下へ歩み出す。
「やだやだやだ・・・」
「うるせえな、雷が鳴ってるのに木の下にいる馬鹿があるか、行くぞ。・・・ほら降ってきた・・・!!」
慌て二人は社の軒下へ逃げ込んだ。
バケツをひっくり返したような雨。より酷い降り。息も苦しくなる程の密度が突然に降り出す。屋根の手前で間に合わず少しばかり濡れ、湿気た暑さに苛立って舌打つ。
と、稲光り地響きを伴って雷鳴が轟いた。サクラが思い切りすがりついてくる。
屋根を見上げて他人事のように呟く。
「今真上だな」
「やだ〜…」
「そんな事言われてもな」
「怖いよ〜…」
「落ちるときは落ちるんだよ・・・」
「・・・っ、落ちるとか言わないでよっ!!」
ヒステリックに叫んで睨み上げてくる。が、閃光一閃小さくヒッと叫びサクラは物凄い力で俺を抱き締める。猛烈な雷鳴が轟いた。
「・・・くくっ、ひっでえ顔」
一瞬の驚いた表情を見て小刻みに笑い出す。
「おい・・・暑ちいよ・・・離れろよ。・・・大丈夫だから」
宥めても変わらず、がっちり掴まれしがみつかれ汗ばむ片腕からサクラの手を外そうと試みるが、強い力で離れない。何だよ、女って意外と強いじゃねえか、などと半分感心しながら溜息を吐く。
それから暫く黙り、夕立の去るのを待った。
サクラは押し黙ったままサスケの胸に顔を押し付けている。閃光を見ないようにきつく瞼を閉じている。
その様子に呆れて、空を見上げるのも雨を眺めるのも飽きて、何も考えずぼんやりとし始める。
「・・・」
サクラの呼吸する声、音というべきだろうか。それに伴う体の膨らみと柔らかさに、・・・聴き入ってしまった。
心の中で舌打つも遅かった。
小さく震えるサクラの熱い体に改めて意識してしまう。呼吸が震えて、心臓の早さが同じと気づくといたたまれなくなってしまった。
「・・・やっぱり離れろ」
「・・・」
ただ首を振る。
困って溜息を吐くと涙声が「ごめんね・・・」と服に染み込んだ。
今のサスケには色っぽいものにしかならない。困り果てて雨打つ屋根を見上げ、高鳴りだしてしまう胸を押さえることも隠すことも出来ず、尚更苦しい呼吸で深くゆっくりと瞬き落ち着こうとする。
「大丈夫だって言ってるだろ・・・」
根拠の無い台詞を吐いて、焦燥感を己で逆撫でてしまう。暑さではなく頬を染めて、やるせない熱を呼吸で追い出そうと試みる。その言葉には深呼吸のせいか優しい響きを感じさせたようで、上下する胸板にもう一度頬を寄せられる。
「俺と居れば怖くないだろ」
声にならない、呟きで、サクラは聴き直そうと見上げてくる。
じっと見つめ合ったまま、動けない。大粒のエメラルドグリーンの透き通る遙か彼方に、俺の知りたいものがあるのだろう。まだ届かない。触れた後どうしたらいい?大切だから、これ以上進むことが出来ない。
首を傾げる仕草に途端に恥ずかしくなって視線を逸らすと動揺が勝って不機嫌に眉をしかめる。
「なんでもねーよ」
サクラは何も言わず微笑んで俺を抱き締めたまま肩口に顔を埋める。時折クスクス笑う。何が可笑しいのかわからず、そのまま空を見上げた。
雨は小降りになり、いつの間にか雷鳴は聞こえなくなっていた。そろそろ雨は止むだろう。サクラを離そうとして、自分が知らぬ間に彼女を抱き締めていた事に漸く気付いた。慌てて解き肩を押して体を離した時にはもうサクラは笑っていた。
「訳わかんねえ・・・」
雨上がりの綺麗な夕暮れに似つかわしくなく不機嫌な表情で軒下から歩き出すとサクラが慌てて後ろについた。
「・・・行くぞ」
「うん」
雨粒を浴び輝く紫陽花に、霧雨の向こうに消えかかった虹、オレンジ色の夕陽、酷く澄み渡る凛とした空気、涼しい風が吹く。
その涼しさを火照った頬に感じて、冷めないまま胸に残るそれはゆっくりと心を焦がし始める。
先を進む俺の手を握るサクラを、どうしてか振り解けない。細く柔らかく湿っぽい彼女の手を、出来るだけ優しく、しっかりと握り返した。





end...

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