なるとねためも

□十六夜
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十六夜






昼過ぎからの軽い夕立の後、俺は縁側で雨上がりのオレンジ色の夕陽と灰色の雲がプツリと静かに音を立てて切れながら流れていくのを見ながら、石畳と緑の濃い葉の匂いを胸一杯に吸い込んだ。
「サスケ、今日の縁日大丈夫そうだな」
背後で兄さんの声がして笑顔で振り返る。
「うん!俺、ずっと楽しみにしてたんだ」
「そうか」
兄さんは柔らかく微笑んでポケットから小銭を出し、俺の手に握らせる。こぼれそうになって慌てて手で包み込む。
「兄さん、これ・・・」
「俺は今日任務で縁日に行けないんだ。俺の代わりに何かお土産を買ってきてくれないか?余りはお前にやるよ」
「いいの?」
「ああ。無駄遣いするなよ」
「うん。ありがとう、兄さん」
嬉しくて、父さんの突っかけで庭に飛び出す。見上げるとオレンジ色にゆっくりと夕闇が濃くなっていく。一番星が出ていた。
夕焼けと夜の境目は、何か特別な空間のように感じる。どこか別の世界へ繋がっていて、色の溶け合う一瞬にそこへ通じているような。
こういう気持ちになった日は特別な物を見つけることが多い。秘密の場所、流れ星、宝物・・・。わくわくして、眠ってしまっていたのを朝になって気付くこと。あれは夢だったのか、という特別。子供にだけ許された特別ななにか。
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