story

□再遇
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雨はあまり好きじゃない。


暗く濁った空の色も。


雨粒が地面を叩く音も。



・・・そんな、ただでさえ気分が滅入る日に出会うなんて。



「おや、雲雀恭弥君じゃないですか。」



不機嫌な表情をしているであろう自分に構わず、彼は笑みを浮かべながら話しかけてくる。



「・・・何してんの。」


傘を持っているにも関わらず、その傘を自分の前に開いたまま置き、びしょ濡れでしゃがみ込むという意味不明な姿の人物に思ったままの問いを放った。


「水も滴るいい男でしょう?」という発言に、「バカじゃないの」とだけ返し、ふっと彼の足下を見る。



「それ・・・。」


彼の足下には雨に濡れた子犬が1匹震えていた。


彼は僕が何に視線を落としているかに気づき、「あぁ」と言って答える。



「寒そうでしたから、傘を貸してあげてたんですよ。」


「君が?」


「いけませんか?」


「似合わないよ。」


そう返すと、彼はクフフと変な笑い方をしながら「はっきり言いますね」と言って子犬の頭に手を置いた。



「見てください、この子犬。・・・きっとこのまま放っとけば、明日にでも死んでしまうでしょうね。」


子犬の弱り具合いからして妥当な見解だと思い、「だろうね」と返す。



「本当に・・・弱いことは哀れだ。」


「何それ、その子犬に同情でもしてるわけ?」


「・・・同情ですか。」



彼はそう呟くと、傘を子犬に預けたまま静かに立ち上がった。

そして僕の方へ振り向く。



「あなたは、同情なんかとは無縁な感じですね。」


「君に言われたくないけど。」


まぁ、同情なんておそらくしたことがないのでそれ以上は言わない。



「別に同情してたわけじゃないんですよ。たまたま、ここを歩いてたらこの子に会ったので。しばらく付き合うのもいいかなと思ったんです。」


「ふぅん。」


「犬は嫌いですか?」


「別に・・・群れてなかったら嫌いじゃないよ。」



そう答えると、彼は目を細めて少し楽しそうに僕に言う。




―じゃあ、僕のことも嫌いじゃないってことですか?―



一瞬、言葉を失った。


彼の口からそんな言葉が出てくると思わなかったからか、何を問われたのかすぐに理解できず、不覚にも言葉を発することができなかった。


傘に雨粒が当たる音だけがやけに大きく聞こえる。



「クフフフ、どうかしましたか?」


その言葉にハッと我に返り、「何言ってるの?」とだけ返す。



「だって、群れてなければ嫌いじゃないんでしょう?」


「君は例外だから。」


「何だ、残念ですね。」


「それに君、群れてないみたいなこと言ったけど、何人か周りにいたじゃない。」


「あぁ、彼等は僕の目的を達成するための道具ですよ。」



本当に気にいらない。


表情ひとつ変えずに、当たり前のように言葉を放つ姿が。



存在が。



「それに、それを言うなら君だって風記委員とやらが周りにたくさんいるじゃないですか。それにボンゴレも・・・。」


「僕は誰とも群れてはいないし、群れる気もない。」


イラッとしながら答えると、彼は反対に笑いながら「そう言うと思いましたよ。」と楽しそうに返す。


何が楽しいのか。


本当にわけがわからない。



「おや、雨が上がってきましたね。」


小雨になってきました、と空を見上げる彼につられて空を見上げると、雲に邪魔されながらも陽光が雨粒をキラキラと輝かせている。



「よかったですね。雨がやんで。」


「・・・何で?」


「あまり好きじゃなかったんでしょう?雨。」



どうしてそう思ったのかは聞かなかった。


本当のことだし、きっと彼のことだから僕の表情などからそう思ったのだろう。


何もかも見透かしたようで、本当に気に障る。



「僕は、君のこともあまり好きじゃないよ。」


「嫌い、ではないんですか?」



特に何か考えたわけではなかったが、しばしの沈黙の後返答する。



「そうだね・・・君と戦えれば、少しは楽しめそうだから。」



一瞬、笑顔から真顔に戻ったものの、彼はすぐに表情を戻して「そうですか」と呟いた。



「それじゃあ、僕はもう行くよ。」



傘をたたみながらそう言うと、彼は首を傾げながら聞いてくる。



「おや?僕と戦いたかったのではなかったんですか?」


「・・・今日はいい。」



今日は見逃してあげることにするよ。


鬱陶しかった雨もやんできたし、それに・・・



「楽しみは、後に取っておくことにするから。」



そう言うと彼は、また笑いながら「そうですか」と返した。



「僕も、再び君に巡り会えるのを楽しみにしていますよ。」



彼に背中を向けた瞬間に聞こえた彼の声は、不思議なくらいにやけに大きく、やけに響いて聞こえた。



まぁ、そう感じただけに過ぎないのだけど。



彼の声を聞いた後すぐに歩き出した僕の頭上では、雲から抜け出した太陽が柔らかな光を地上に降り注いでいる。



「君と会った後でも、気分がよくなったりすることがあるんだね。」



さっきまでは考えられないような柔らかな光を浴びながら、そんなことを独り呟いた。




おわり。



次はあと書きっぽいものなので、見たい方だけどうぞ。→
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