お題
□恋に気付いた5題
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〔02:その表情に〕
「ふぅ……」
溜め息を吐きながら私は住みかにしているアイツの部屋へと戻った。
帰りに寄った浦原によると結果は“異常なし”と言う事だった。
最近感じているわけの分からない感情の事も聞いてはみたのだが、あの者はただ曖昧に笑うだけだった。
「何が“その内分かりますよ”だ、あの強欲商人めが!」
毒吐きながら押し入れの戸に手を掛けたその時、部屋のドアが前触れもなく開いた。
「ルキア、帰ってたのか?」
入ってきたオレンジ頭の少年が不思議そうに問い掛けてくる。
私はまたわけの分からない感覚に囚われながら頷いた。
「にしては遅かったな」
「あぁ、浦原の所に寄っていたのだ」
「……浦原さんの?」
「そうだが……?」
それがどうしたのか、と聞こうとしたけれど、声にはならなかった。
何処か淋しそうな、けれど苛立っているような不思議な表情に息が詰まる。
「い、ちご?」
やっとの事で名前を呼ぶと、一護は我に返ったかのように髪をグシャリと掻き混ぜた。
その手が離れた時には先程の表情は微塵もなく、ただいつも通りのしかめ面が其処にあった。
「いち……」
「今帰ったばっかなんだろ? それじゃあ着替えてこいよ。すぐにメシ持ってくっから」
「え、あ、あぁ」
そのままクルリと踵を返して入ってきたばかりのドアから出ていく。
そんな後ろ姿を私はただぼんやりと眺めているしか出来なかった。
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