「このとーり、お願い!!」

目の前の彼女が両手を合わせて頭を下げるのを見て本気で困ってしまった。
私はスプーンに掬った今日のお昼ご飯のオムライスを口に運ぶことも出来ず唸ってしまう。
仲のいい同期の頼みだから引き受けたい。
でも内容が内容だけに、いいよと返事できないのだ。

「いやぁ、ちょっとそれは・・・」

「どうしてもあと一人必要なの!それに相手は高物件だよ?
あの有名商事のエリートなんだから!!」

すごくない!?と詰め寄られ思わず身を引いてしまった。
この話で何となくお分かりかと思いますが私が首を縦に振れない内容というのが
合コンの人数合わせに誘われているからだ。
出会いの場である合コンに出会いの必要無い人間が参加するのは如何なものか。

公表してないが私にはお付き合いしてる人がいる。

それはもう私にはもったいないくらいの相手で社内で人気の和山部長だからだ。
女性ファンの多い部長はそれはモテる。すっごくモテる。
だから怖い。私が部長と付き合ってるというのがバレたらと思うと恐ろしくて夜も眠れない。
部長は付き合ってる事を隠したがる私に不満気だけど、女の嫉妬程怖いものはない!
私、和山部長と付き合ってまーす!なんて言ってしまった日にはそれなりの嫌がらせは必須。
臆病で意気地のない私は和山部長に甘えて交際の事を隠してもらっている。
でも隠しているからって合コンはいただけない。というか参加したくない。
いまだにお願い!と懇願してくる彼女に何て言って断ろうか頭を悩ませている時だった。

「隣、いい?」

聞き慣れた。それはもうすごく聞き慣れた声が聞こえた。
一瞬ビクつきながらも私の隣に座った人物をチラリ見る。

「和山部長・・」

紺色のストライプスーツに黒縁のメガネ。
女性のような可愛らしい顔立ちなのに意外と男らしい手。
ゆっくり腰を下ろすと近くのテーブルに座っていた女性社員達が色めき立つ。
流石です。我が社のアイドル和山部長のご登場だった。

「お疲れ様でーす和山部長!食堂珍しいですね?」

「あぁ今日はお弁当無いからね」

「和山部長お弁当男子なんですかー?!意外!」

「いつもはお弁当持って外で食べるんだけどね。今日は残念だよ・・・ね?」

その、ね?は思いっきり私に向けられたものだ。
気づかずキャッキャと騒ぐ同期と反対に私は内心冷や汗ダラダラ。
隣の部長からビシビシと視線を感じるけど振り向けない。

「そういえばアンタもいつも弁当よね?昼休みになるといつも大きな袋持って出て行くからさーいつもどんな大きな弁当箱だ!って思ってたのよねー」

「あ、はは」

曖昧に笑って返すと同期はすぐさま部長に矛先を変えた。

別にドカ弁を見られるのが恥ずかしくて昼休みに出て行ってるわけじゃない。
中に自分の分と和山部長のお弁当が入っているからだ。

付き合い出したころから「弁当作ってきて」というわがまま・・お願いをされてから出張などない限りお昼は一緒に取る事にしている。(バレたら嫌だから別々に出て少し離れた公園で待ち合わせという徹底ぷりです!)
今日はいつもより寝坊してしまいお弁当作れなかったから出勤中にごめんなさいのメールを入れておいた。
そのあと返事が無いなぁと思ったら本人のご登場。てっきり外に誰かと食べに行くかと思っていたのに。
まさかのドッキリに私はオムライスが一口も食べれない程緊張していた。

「あ、ていうか忘れる所だった!ね、お願い参加してよー!」

「い、いやその話はまた後で・・!」

「だって早く返事しないといけないんだもん。相手待たせてるからさ」

「あ、あの本当にそのことは・・・」

「何の話?」

「合コンの話です!今日の夜なんですけどねーあとはこの子の返事待ちなんです」

「・・・合コン」

「(ひつ!)いやだから参加しないて!」

「えーでも今フリーでしょ?絶対参加した方がいいってば!」

「合コンねぇ・・」

「いや、ほんとにちょっと!(勘弁して!)」


苦痛です。不機嫌さを隠そうともせず和山部長は定食の味噌汁を啜っている。
その目で見られたら私は倒れる自信がありますよ部長!怖い!
そして目の前のあなた!本当に諦めて!そして早くこの不機嫌オーラ全開の部長に気づいて!!

「たまにはいいでしょ?ねっ?」

「無理無理、ほんとーに無理!」

「・・・あのさ、」

「はい?」

「は、はい!」

「男と喋るな。愛想を振り撒くな。合コン行くな。」

「?」

「俺がこの子に約束させた事なんだよね。
だから合コンは行けない。・・・ていうか行かせないけどね?」

だからごめんね?と、にっこりと微笑んだ部長はチラリと私の方を見て今日、残業だから。と恐ろしい言葉を残して去って行った。

「(あぁ・・・どうしよう)」

状況を飲み込んだ同期が騒ぎ出して食堂にいた人達に部長との関係がバレるのも時間の問題となってしまった。





部長と私。





会社中に付き合ってる事がバレた時の和山部長のあの嬉しそうな笑顔は忘れられません。









END


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