Short Dream
□アイリス
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声がした方に少々驚いて振り返るとやや年配の男性が花束をいくつか抱えて立っていた。
「驚かしてすまないねちょっと裏にいたものだからお客さんが入ってきたの気付かなくてね。」と言いながら男性はカウンターに持っていた花束を置く。
「お兄さん、その花が気になったのかい?」
「・・・はい。これ、なんていう花ですか?」
「それはアイリスっていう花でね、アヤメ科の花だよ。」
「アイリス・・・」
「もしかして彼女への贈り物かい?」
気の良い感じに笑うおじさんに思わず言葉に詰まる。
・・・彼女。・・・・・だったらいいな、とは思う。
けれど残念ながら名無しさんちゃんは俺の彼女じゃない。
その事に少々落胆しているとおじさんは察してくれたのか、俺の肩を優しく叩いた。
「アイリスはそんなにメジャーな花じゃないし、派手じゃないが好きな女性に贈るにはピッタリな花さ。」
にっこりと微笑んだおじさんに俺も笑顔を返す。
おじさんはアイリスを一本取り出しカウンターへと持っていくと丁寧にラッピングし、スッと俺の前へと差し出した。
「兄ちゃんカッコいいからプレゼントだ!」
「や、そんな!払いますよ俺、」
「いいっていいて。今度この花を贈った彼女と一緒に来てくれたらそれでいいさ。」
年寄りのお節介だから。とおじさんは俺に花を握らせると背をぐいぐいと押して店の外へと出された。
「頑張れよ、兄ちゃん!」
心地いい声を投げかけられ、俺は軽く手を振り「絶対、彼女と来ます。」と答えて歩き出した。
手には一輪のアイリス。
綺麗にラッピングされていて、巻かれた赤いリボンにおじさんの好意を感じる。
この好意を無駄にしてはいけない。
きっと、名無しさんちゃんを前にすると照れ臭くて上手く喋れないだろう。
でも何気ない振りしてこの花を渡すんだ。
名無しさんちゃんがどんな反応するかなんてすごく気になるけどそれを見る余裕なんてきっと無い。
きっと恥ずかしくて焦る心を悟られないように少し視線をずらすんだ。
けどおじさんの言葉を思い出して、花に巻かれた真っ赤なリボンに負けないくらい真っ赤な顔して君に告げるんだ。
ア イ リ ス
(恋のメッセージ) (あなたを大切にします)
END*