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□初詣
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「おお、寒っ」
何が悲しくて、男二人で初詣なんかいかなきゃならんのだ。
今年も暖冬だと言っていたけど、今日に限って隙あれば北風がオレ達の間を吹き抜けて行く。
「そんな薄着をしてくるからですよ」
隣で古泉がクスクスと笑う。
そんな薄着のつもりはないんだが・・・・
どっちかと言うとコートを着ているオレ(どこが薄着と言うんだ)よりも、
ジャケットとマフラーのみのお前の方がよっぽど薄着だぞ・・・寒くないのか。
「キョン君は、そうですね、ココの辺りが薄着なんですよ」
そういうと、古泉は自分のマフラーを解き、オレに巻きつけた。
「なっ」
ふわりと鼻に漂ってくる古泉の温もりと香りが、何とも言えず・・・恥ずかしい。
「あなたは、首筋が無防備ですから」
古泉はオレに向かって、にっこりと女子殺しの微笑みを投げる。
この笑顔をもってすれば、今日のこの日をオレなんかと過ごす羽目にはならずに済んだろうに。
「いやらしい言い方はよせ」
首に落ち着いた白いふわふわのマフラーを突き返してやろうかと思ったが、
思いのほか暖かさが気持ちよくなってきたのでその決心も揺らいでしまった。
しかし・・・何となく癪に障る・・・。
・・・とその時。
「・・・くしゅんっ」
・・・・・!!??
なんだ、今の・・・。
「す、すみません・・・急に冷えたものですから」
はっと横を向くと、照れくさそうな古泉。
もしかして、今のは・・・オマエか??
・・・って言うか、寒いのにマフラー人に譲るか普通・・・!!
「古泉、無理するなと言うか・・・馬鹿か、お前は」
「いや・・その、申し訳ない」
眉をますます下げてしまう古泉に、俺は思わず溜息を漏らす。
寒いなら見栄張らなきゃいいのに。
「寒いならオマエが巻いとけよ」
この温もりを手放すのは惜しい気もしたが、持ち主に寒い思いをさせると言うのは本末転倒と言うか、何か違う気がする。
オレがマフラーを解こうとすると、「ちょっと待ってください」と古泉がそれを静止した。
「二人で使いましょう」
「・・・・・・・・!!!」
に、にっこりと何を言い出すんだ、こいつは・・・!!!
そんなの、付き合って3ヶ月のラブラブな高校生カップルしか・・・てか、今時しないぞ・・・そんな恥ずかしい行為・・・!!
「結構長いんですよ?」
やめろと言おうと口を開いたが遅かった。
オレの首の真っ白ふわふわのマフラーは、オレと古泉の首の間を仲良く繋いでいた。
「・・・・・・・・」
・・・恥ずかしい・・・。
しかし、この温もりを・・・(以下略)。
「このまま、僕の家まで行きましょう。暖かい飲み物でもいかがですか?」
古泉の満面の笑みが、間近5センチの距離に輝いている。
・・・もう、しょうがない・・・。
幸い、元旦の午後らしく人もあまりいない。
しかし、離れて歩くと不自然なマフラーがイヤに目立ってしまう。
「古泉」
オレは、コートのポケットから左手を出した。
「・・・え?何ですか?」
「手」
「え?」
「て、つな・・つな・・・」
やっぱり言えるか!!!
なるべく離れずに歩いた方がマフラーも間でフラフラせず自然だ。
だから・・・手を繋いだらどうかと思ったのだが・・・言ったと同時にコレは間違っていると気付いた。
そうだ、オレがマフラーを諦めればいいことじゃないか。
「い、いや、やっぱり・・・い」
『いい』と言おうとしたのが遅かった。
いきなり古泉の右手が、オレの左手をしっかり握り・・・そしてコートの左ポケットへズボリと突っ込まれた。



「・・・・・!?」
「これなら、繋いでいるのも分かりませんし・・・恥ずかしくないでしょう?」
万戦必勝の策士の顔だ・・・。
オレの心を見透かした瞳に、もう何も言えなくなってしまった。
「さ、行きましょうか」
・・・・もう、どうにでもなれ。
みるみる顔が火照っていくのが分かる。
これはもう、真っ白ふわふわのマフラーの所為ではなく・・・。
「そんな嬉しそうな顔をするな、恥ずかしい」
オレはせいぜい悪態をついて、ヤツがますます浮き上がらないようにするのが精一杯だ。
いや、浮き上がりそうなのは、オレ・・・か?
何故なら
男二人の初詣が、さほどイヤではないと言う事に気付いてしまったから・・・。



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200806うp



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