小咄
□2013年は巳年
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「2013年は巳年、俺たちは年男と年女ってわけだ」
「そ、そそそそそうですね」
シュー、と独特な音が耳元をかすめ全身がチキン肌になる聖香。
蛇さんは神の遣い!!
神の遣い!!
お遣いったら遣い!!
呪文のようにぶつぶつと繰り返すが一向に肌は落ち着いてくれない。
まあ、忘れがちな人間の生存本能のせいだろう。
いくら目がつぶらで愛くるしいとか言い聞かせても、本能が危険だと云うのならしょうがないというものだ。
しょうがない、とはこういう時に使う言葉だと作者は信じている。
「どんだけ離れてるつもりなの?助けてよ秀ちゃん」
「あ?なんだよく聞こえないぞ」
そりゃそうだ、秀一は聖香との距離を五メートルは置いている。しかも蛇さんのことを考えて大声は出せない状態なのだ。
ものすごく態とらしく宣う秀一はいつものことだが、今回は助けて欲しい、切実に。
涙ちょちょぎれでなんとか纏わり付く蛇さんにお帰り願おうとする聖香。
私は蛇皮よりラビットファーを首に巻きたいよ!!
さっきまで神の遣いとか思っていたのにご乱心だ。
「がんばれ」
「薄笑わないでこのいじめっこー」
「あ?お爺さんにゃあ聞こえません」
明らかに顔が(^w^)になっている。
ああ、もう限界!!
「助けてよ!」
「俺だって蛇は触りたくない。変温動物は苦手なんだ」
「この弱虫っ」
「あん?」
ギッと恐ろしい形相になった秀一は一瞬で聖香と間合いを詰め、首に巻き付いていた蛇さんをひっつかみ比較的優しく地面に離した。放り投げなかったのは祟りを気にしたからという説もあるが真相は不明である。
そのまま聖香の腕をひっつかみズンズン歩いていき、車に乗せた。
そして自分はそのまま暫くどこかへいなくなり、五分ほどして暖かいカフェモカを手に戻ってきた。
「今のコンビニは従業員の負担を無視しているがこちらとしてはいいサービスだな」
「・・・うん、ありがたいよね」
ちょっとお高いが煎れたての美味さがあるそれに口を付けてほっと一息。用意のいいことで、一口サイズのチョコレートも差し出され糖分の補給でリラックスしてきた聖香。
ラジオでは昔聴いた懐かしい洋楽が流れ、手にはカフェモカとチョコレート。
雪が降りそうな外気温なんてそっちのけで、心まで温かくなった。
「秀ちゃん、今年もよろしくね」
「・・・おお、今年も世話かけるんだな」
「お世話になります」
「ふ、よきにはからえ」
「どういうこっちゃ」
むに、と頬を抓られたけどちっとも痛くなんてなかった。
fin
(何処で蛇に巻き付かれたよ!?とは訊かないでください)