Remix Heart


□Remix Heart-第六章-
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新暦705年

 戦災復興で整備され、比較的新しく立派な家やマンションが立ち並ぶこの地域。 その一角。

 南側に大きな窓があり、柔らかな陽の光が射し込む3LDKの一室。 ここが、ゆずの現在の住居(アパート)。


ゆず「う、う〜〜……んっ!」

 ノートパソコンに向かい、ピアノを奏でる様に流麗な指捌きでキーを叩いていたゆずは、かれこれ六時間に及ぶ作業を中断した。 無休で酷使していた脳が、もう休ませろと頭痛と言う名の抗議をしたらしい。

 椅子の背にもたれ、凝り固まった身体を解す様に伸びをする。 随分と集中していた様で、関節が小気味良い音を上げ、目も乾き焦点がぼやけていた。

ゆず「はぁ、疲れた〜。 もう、目がショボショボ……」

 瞬きを繰り返した後、ギュッと目を瞑って眉間を抑える。 乾いた目を潤す為に、涙が涙腺から溢れてきた。

ゆず「目は重要な器官だから、大切にしなきゃだよね。 よし、『ロウト・あいじー』投下っ!」

 おどけながらそう言い、机の上に無造作に置いてあった目薬を点す。 鼻息荒く投下された薬液は、狙い澄ましたかの如く正確に眼球の頂へと降り注いだ。

ゆず「くぅ〜〜っ! 効くぅ〜〜っ!!」

 椅子に座ったまま身を縮め、バタバタと足を振る様子は童顔も相俟って子供の様だ。

ゆず「っーー……っと。 目は人間の情報入力の七割から八割を占めるって言うけど、彼らにとってはそれ以上の重要性があるのよね……」

 しかし、子供っぽい言動を取ったかと思えば、急に大人びた態度になる。 顔や背丈は変わらないのに、彼女を知らない者が見ると、言動や雰囲気の違いで別人にすら見えるのだ。 それこそ、大袈裟に言えば二重人格に見える程に。

ゆず「感覚器官としての機能もそうだけど、瞳術を行使する為の出力装置に変貌する。 チャクラや魔力が、細胞に働きかける事によって器官の構造すら作り変えるなんて……」

 従兄弟を拝み倒して手に入れた、民間人では普通なら入手出来ない資料に目を通す。

 そこに書かれているのは、“瞳術系血継限界”の中でも『三大瞳術』と呼ばれる三種類の瞳術の調査報告書(レポート)。 無論、核心に触れる最重要機密は書かれていないし、この調査報告書自体の管理も徹底されている。 もしも、紛失したり第三者の手に渡る事があれば、これを持ち出した従兄弟共々“少々マズイ事”になる代物だ。

ゆず「血継限界……人体の神秘、ねぇ。 上位瞳術による『魔法』に『忍法』、“奇蹟を起こす神の業”、か…………」

 ベランダへと出て、陽が西へと傾き始めた空を見上げる。 まだ夕暮れには早いが、肌を撫でる風が少し冷たく、思わず家路を急ぎたくなるくらいだ。 しかし、熱を持ったゆずの頭には、丁度いい冷却材になる。

ゆず「今年公開される筈の“大戦の資料”。 未だに謎が多いあの戦争の真実が、もう直ぐ明かされる…………でも、『三大瞳術(これ)』の秘密も明らかになるって事は、流石にないよねぇ〜」

 パラパラと報告書を捲りながら、自分でもあり得ないと思う事を口走り苦笑い。 ジャーナリスト故の性(サガ)なのか、それとも生来の性格なのか。 どうも、興味のある事はとことん調べたくなるらしい。

ゆず「まあこの辺は、プライバシーにも関わってくるから、これ以上深入りするつもりもないけどね……」




 第二話
 「三大瞳術」



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