Remix Heart


□Remix Heart-第六章-
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新暦705年

 幸福というものは、それを感じる人によってその内容が異なるものだ。 が、人にとっては掛け替えの無いものである事は共通している。


 その時間の長短に拘らず、それを大切に想えば想う程、失った時の悲しみは大きく深く。

 しかし、失った時にしか、その真の価値を見出す事能わず。


 ― 愚か ―


 ヒトとは何と愚かな生き物か。

 汝が進むは、復讐と言う名の修羅道か。 はたまた、総ての呪縛から解き放たれし天道か。

 人生とは、一寸先も見えぬ夜道と同じ。

 先を知る事叶わぬ故に、常に不測の事態に備えよ。 常にその頭で考えよ。

 如何な時も、汝の最善を成す為に。



ゆず「――『そして、決して後悔を残さぬ為に』か……」

 その言葉を噛み締める様に口にしたゆずは、沈鬱になりかけた気分を振り払う様に勢いよく本を閉じた。 手にした本は、古びたハードカバーの著者不明の書。 『オイディプス戦争』以前に出版され、後に破損していた物を作り直した本らしい。

ゆず「これが、一つのターニングポイント。 もしも“あの時点”で“彼”を討つ事が出来たなら――」

 そこまで言いかけて口を噤む。 過ぎた時間に対する仮定の話など意味は無い。 そもそも、民間人にそれを望むのは酷な事だろう。

 窓から見える真っ赤な夕陽は、雲一つない空を美しく染め上げていた。 幻想的な夕焼けは、しかし――

 今のゆずには、泣きたくなる程悲しい景色に映っていた。




 第三話
 「迫り来る死の足音」



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