Remix Heart


□Remix Heart-第六章-
17ページ/345ページ

秋臣『すまない、孝平。 知らない方が幸せだろうと隠してきたが……そうか、“またシステムが起動してしまった”んだな』

孝平「……シス、テム……?」

 力無く漏れた言葉の中に、全く予想していなかった単語があり首を傾げる。

秋臣『不活性化保存(モスボール)処理が甘かったのか、それとも……』

孝平「どういう……事だよ? “システム”って何だよ、親父!?」

 一人でブツブツと呟き始めた秋臣に、孝平は苛立ち、声を荒げながら訊ねた。 知っているなら教えて欲しい。 もうこれ以上、知らないフリは出来ない。

 それに、『輪廻眼』の能力を使えば、詳細が分かれば……もしかしたら、友人を救えるかもしれない。 救う為の手掛かりが手に入るかもしれないのだ。

 とは言え、そうそう都合のいい事があるとも思っていない。 だけど、僅かな可能性であっても、今はそれに縋るしかないのだから……

秋臣『……電話で話せる内容ではない。 今度纏まった休みを取るから、その時にそちらで話す』

孝平「親父、今話してくれ! これ以上、訳の分かんねえ眼を抱えているのは嫌なんだ! それに――!!」

秋臣『孝平!』
孝平「っ!?」

 もう義之には時間がない。 だから、自分が先延ばしにしたせいとは言え、今直ぐにでも知りたいのだ。

 だが、秋臣は今話す気は無いらしい。 神秘のベールに包まれている瞳術だからと言う理由もあるが、大切な話しであるが故に電話で伝えるのが憚られるのだろう。

秋臣『いいか、孝平……その眼は、お前の眼だ。 “お前にしか支配(コントロール)出来ない”と言う事だけは、絶対に忘れるな』

孝平「っ……親父!!」

秋臣『近い内に会おう。 それじゃ、またな』

 言いたい事だけを言って、一方的に通話が切られた。 最後の強く言い聞かせる様な言葉と、いつもと変わらない別れの挨拶が……孝平の耳には、何故かずっと残っていた。

――――
――



同時刻(現地時間早朝):イタリア州トスカーナ・フィレンツェ県・社員寮

秋臣「…………」

 受話器を置いて、脱力した様に壁に寄り掛かる秋臣。 まるで中身が全て抜けてしまったみたいに、身体が宙に浮く様な感覚を覚えた。 とても、不快な感覚だ。

秋臣「……まさか、封が解けていたとは……やはり、“抜け殻”では力不足だったのか?」

 あの頃はまだ子供だったし、定期的に維持(メンテナンス)も行ってきたから大丈夫だと思っていた。 しかし、現実には“起動”してしまっている。

秋臣「くっ……やはり傍にいるべきだった。 俺は、何て愚かな事をしてしまったんだ……」

 自分の浅はかさと愚かさを呪い、拳を壁に叩き付けた。


 何度も、何度も――


 肉が裂け、骨が砕け、コンクリートの壁が粉々になるまで……


??「――秋臣っ、何をしているのっ!?」

秋臣「紗枝(さえ)……」

 そこに、秋臣の怒鳴り声と何かを叩く音を聞き付けた『支倉 紗枝』がやって来た。 夫の異常な行動に驚いた紗枝は、秋臣に駆け寄りその腕を抱え込んだ。

紗枝「一体どうしたのよ? 何でこんな事を……」

 原形を留めぬ程傷付いた拳を見て、涙を流しながら問い質す紗枝。 震える身体でその腕を抱き込む彼女を見て、秋臣はようやく冷静さを取り戻した。

 最愛の妻を泣かせた罪悪感が頭を過るが、もっと大きな罪を告白しなければならない。 そう思うと、罪の重さと自分への怒りで押し潰されそうだった。

秋臣「すまん、紗枝……それよりも、聞いて欲しい事がある」

紗枝「……余り、いい予感はしないわね…………」

秋臣「ああ。 孝平の不活性化保存処理が解けたらしい。 どの程度システムが覚醒したのかは分からないが、早急に日本へ戻る必要がある」

紗枝「なっ……!?」

 その報せを聞き、紗枝は驚愕に目を見開いて秋臣の顔を見た。 秋臣は、悔しさと申し訳なさを滲ませた表情で頷く。

秋臣「何とか理由を付けて、直ぐに長期休暇を取る。 例えクビが飛ぼうとも、今は孝平が最優先だ」

紗枝「ええ、勿論よ」

 言うや否や、即行動に移る二人。 秋臣は会社へと連絡をし、紗枝は涙を拭いながら必要最低限の荷物を纏め始める。

 会社へ電話をする秋臣の視線の先には、先程破壊した壁。 眼球が徐々に蒼穹色へと染まり、六本の波紋模様が広がる。

秋臣「――ええ、はい……宜しくお願いします」

 電話を切った秋臣は、直ぐに紗枝の手伝いに向かった。



 壊れた壁と、見るに堪えない状態だった拳は――


 何かの見間違えだったと思わせる程、元の綺麗な状態に戻っていた。



 第二話-END-
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ