Remix Heart


□Remix Heartー第五章ー
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昼休み:廊下

由夢「兄さ〜ん!」

 教室を出て、学食に行こうか、購買に行こうかと悩みながら歩いていると、反対側から歩いてきた由夢に声をかけられた。

義之「ぅぐっ!?」

 今朝の事もあり、思わず身構えて息を詰まらせた。

 兄をよく小馬鹿にする愚妹は、甚だ遺憾ではあるが大人しくしていれば音姉にも匹敵する美少女だ。(決して身内贔屓でも兄バカでもない) 当然、男子の人気はかなり高い。

 そんな由夢と一緒にいる所を目撃されたら、また今朝の様な事態になるのは目に見えている。

 しかも、考え事をしている時に、不意打ちの様に声をかけられたのだ、大声で。 そりゃ、息を詰まらせて身構えるだろ?

義之「や、やあ、由夢か・・・・」

由夢「どうしてそんなにビクついてるんですか?」

義之「いや、そんな事ないぞ?」

由夢「・・・・」

 引き攣った笑みを浮かべた俺を見て、訝しげに首を傾げる由夢。

義之「そ、それより、何の用だ?」

由夢「あ、そうそう。 兄さん、お昼はどうするか決まってますか?」

義之「いや、別に誰かと約束してる訳じゃないけど」

由夢「じゃあ、一緒に食べませんか?」

 にっこりと笑って言う由夢。

 こいつ・・・・まさか、たかるつもりじゃないだろうな? はっきり言って、こいつから誘ってくる事は珍しい。 こういう場合は裏がある可能性が高い。

義之「一緒に食べるのは構わないけど・・・・学食でか?」

由夢「いいえ」

義之「じゃあ、購買で買って食べるとか?」

由夢「違います」

義之「・・・・・・・・」

 残された選択しを察し、俺はゴクリと喉を鳴らした。 頭の中は大パニックになっている。

 レッドアラート、第一種警戒態勢、コックピットエジェクション、総員退艦、etc・・・・・・

 赤色回転灯が、人間に危険を連想させる色を目が眩む程放ち、サイレンがけたたましく鳴り響く。 オーバーSランクの任務に匹敵する危険が身に迫っていると、本能が震える声で訴えかけてきた。

 俺はもう一度喉を鳴らすと、恐る恐る確認する。

義之「オ○コン・・・・まさか、由夢の手作り弁当じゃないだろうな!?」

由夢「あの〜? 兄さん? 質問の意味が分かりかねますが? て言うか、オ○コンって何です?」

 左手を耳に当てながら迫真の演技で聞いた俺に、由夢は笑顔を浮かべながらこめかみをヒクつかせた。 どうやら、オ○コンがお気に召さなかったらしい。 ナ○ミとかメ○・リンの方が良かったか?

義之「い、いや・・・・別に深い意味はないよ」

由夢「まるで、私の手料理だったら問題があるような言い草ですね」

義之「そ、そんな事ないぞ?」

 慌てて首を振ったが、実際、由夢が作った弁当を食べたりしたら、午後は保健室の世話になる事を覚悟しなければならないだろう。

 一万歩譲って、由夢の弁当を食べるのはいい。 腹を壊しても死にはしない・・・・多分。 だが、保健室なんぞに行こうものなら、間違いなくマッドドクター(医者ではないが)水越舞佳に実験体にされる可能性がある。 それだけは、生命としての尊厳を懸け、断固阻止しなければ・・・・・・

 というか、殺人料理の二大巨頭の一人、菜月さんの弁当を食っても顔色が悪くなるだけの達哉さんって一体・・・・? LCUメンバーは、内臓も鍛えているのか?

 脂汗を流しながら、ぎこちない笑みを浮かべる俺を見て、由夢は鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。

由夢「・・・・違います」

義之「え?」

由夢「お姉ちゃんとさくらさんも一緒ですから」

義之「そ、そうか。 音姉とさくらさんも一緒なのか」

 思わずホッと胸を撫で下ろす。 弁当かどうかは知らないが、少なくとも音姉とさくらさんが一緒なら大丈夫だろう。

義之「んじゃ、行こうぜ」

由夢「・・・・・・」

 緊張が解け、いつも通りに戻った俺を見て、由夢は不満そうに唇を尖らせると、無言のまま先に歩き始めた。

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