Reason Hack

□孝平るーと☆
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昼:千堂家・伽耶私室

伽耶「明日から、あたしも学院に通うぞ。 既に手配は済ませてある」

桐葉「・・・・・・・・・・」

孝平「・・・・・・はい?」

 独特な香りに包まれた、だだっ広い畳張りの部屋で――

 正面に正座していた“生徒会役員”の『支倉孝平』と、その同級生にして“フリーズドライ”の異名と艶やかな黒髪、豊満なボディを持つ『紅瀬桐葉』に向けて、他愛のない話をする様に何気なく言葉を放つ“純血の吸血鬼”であり瑛里華と伊織の母『千堂伽耶』。

 桐葉は目を大きく見開きフリーズし、孝平は自分が耳にした言葉を理解出来ずに間抜けな声を上げた。

伽耶「・・・・耳の掃除はちゃんとしておるのか? 二度もあたしに同じ事を言わせるな。 明日からあたしも学院に通うと言ったのだ」

桐葉「・・・・・・・・どういう事?」

 不機嫌そうにもう一度言った伽耶に、桐葉は視線を鋭くして問い返す。

 孝平はまたもや、伽耶の真意を掴みかねて首を捻った。

伽耶「幼馴染や娘が、普段どのような生活をしておるのか・・・・・・それを知るには、同じ環境に身を置くのが一番いい」

孝平「はぁ・・・・・・?」

 御簾の上がった奥の一段高い所で、僅かに胸を張って「どうだ、名案だろう?」と態度で表す。

 益々訳が分からん。

 普段から寮や生徒会室に入り浸り、生徒会のメンバーや孝平達の友人らも、瑛里華と伊織の話はよく聞いている筈だ。

 にも関わらず、わざわざ学院に通うとはどういうつもりだ?



 ここまで考えて、孝平はふと思い当たった。

孝平「ああ、なる程! つまり、教師として学院にかよ・・・・」
伽耶「違うわ馬鹿者!」

 孝平の言葉を遮り、部屋の空気を震わす程大きな声で否定し、罵る。

 同時に飛んできた扇・・・・それも、護身用に何たら合金で作られた、総重量3kgもある武器・・・・が額に直撃し、孝平はその場でもんどりうって倒れた。

桐葉「はぁ〜・・・・・・」

 畳の上で、水揚げされた魚の如くのたうち回る恋人を一瞥する事もなく、桐葉はフリーズドライと呼ばれていた頃の表情で、呆れた様にため息を吐いた。

伽耶「何より・・・・あ、あたしの夫が、学院でどの様な事をしておるのか・・・・・・生徒会室や人伝の話だけでは、その・・・・分からぬであろう? だから、生徒として通うのだ」

 顔を真っ赤にしてモジモジと人差し指を突合せ、チラチラと孝平の顔色を窺うその様子は、外見の通りとても可愛らしいものだ。

 ・・・・・・鉄扇をライフル弾の様に飛ばしたりしなければ、だが。

桐葉「また戯れを・・・・自分の歳を考えてみなさい。 上手くやっていけるのかしら?」

伽耶「歳の事をお前に言われる筋合いはない。 桐葉や伊織も上手くやっておるのだ・・・・あたしに出来ぬ筈はない」

 挑発的に口の端を吊り上げる桐葉。 勿論、目は笑っていない。

 対して、伽耶も口角を吊り上げる。 こちらは、勝ち誇った様に流し目で孝平を見る。

 その自信と根拠はどこから来るのか・・・・・・最早、その事に突っ込む者はいなかった。

孝平「〜〜〜っ・・・・!!」

 孝平は未だにもがいている。 頭蓋が割れず、僅かに血が滲んだだけで済んだのは、伽耶の加減のお陰か偶然か・・・・・・甚だ疑問である。

――――
――

 結局、孝平はのた打ち回る以外何も出来ず、伽耶が強権(命令まで使った)で桐葉をやり込め、伽耶が学院へ通うことが決定した。 ここに、民主主義などといった軟弱な思想はなかった。

征一郎「支倉」

孝平「・・・・はい」

征一郎「伽耶様にもしもの事あらば・・・・・・・・分かっているな?」

孝平「・・・・・・・・」

 苦労人に幸あれ・・・・・・


 続く――
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