Reason Hack

□義之るーと☆
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朝:通学路

義之「・・・・・・」
ななか「〜〜♪」

 義之はそこらのアイドルよりもよっぽど可愛い恋人、白河ななかと腕を組みながらいつもの通学路を歩く。

 柔らかな双丘に抱き込むように義之の腕を取るななかは、とても上機嫌にハミングしていた。

 対照的に・・・・義之は不自然に表情を強張らせたまま脂汗を流している。

 その理由は――


音姫「・・・・・・・・・・・・」

 後方50m程の電柱の影。

 そこに、悔しさと嫉妬と嫉妬とあと嫉妬を滲ませ、黒い負のオーラを発散しながら電柱に爪を立てる音姫に気付いていたからだ。

 それだけでも充分怖いと言うのに、ギリギリと立てられた爪がコンクリに食い込み、嫌な軋みを上げて徐々に砕けていくのが分かるから、より一層の恐怖を煽られる。

 何も知らない偶然側を通りかかったお爺さんが、そんな様子にギョッとして溝に落ちた。 ご愁傷様。

 周囲の桜が音姫の魔力に反応して、その気持ちを代弁するかの様にザワザワと枝を揺らした。 気のせいか、落ちて来た花弁が赤い気がする。

 可愛い彼女とその双丘に幸せを感じると同時に、背後から迫る死神の様な圧力に薄ら寒さを感じる義之は、そそくさと歩みを速めた。


 そして――


 カテリナ学院の校門前に到着した時、事件は起きた。

ななか「ふふ♪ 義之君、ここでキスして」
義之「・・・・え゛っ!?」

 ちょこんと人差し指を顎に添えながら、可愛らしくおねだりするハニー。

 ちょっ!? 他に大勢の生徒がいるのに何て事を!!

 周囲の視線が痛い、痛過ぎる!!

 しかも背後のプレッシャーが増大した!!!!

 と、義之の心中は穏やかではなかった。 荒れ狂っている。 本能が警鐘を鳴らしまくっている。

音姫「うぅ〜〜〜〜・・・・・・」

 ビキイイィィッッ!! と、背後で破砕音、倒壊音。 一本約二万二千円の電柱様がご臨終なされた。 余談だが、これはあくまで本体のみの値段であり、千切れた電線の交換や工事費などの合計が幾らになるかまでは知らない。

 負のオーラは計器を振り切り尚も上昇中。 周りからは他の生徒の悲鳴が聞こえ、皆一様に足早に学内に入って行った。

 気が付けば、一帯には義之とななかと音姫の三人のみ。

 一陣の風が吹き抜け、緊張が高まる。


ななか「ふふふ・・・・誰もいなくなったよ? ね、義之君、キスして?」
義之「な、ななか・・・・」
音姫「う゛う゛ぅ〜〜〜〜」

 動く事が出来なかった。

 振り向きたくなる衝動も、振り向いた先にいる未知の音姫への恐怖から掻き消え、キスする事もその恐怖から出来ない。

義之(ど、どうする俺!?)
ななか「・・・・」

 だが、ニコッと微笑んだななか裁判長は考える時間も与えてくれなかった。

ななか「一週間・・・・命令は絶対、だよ?」
義之「うぐっ!?」

 ここに来てようやく、このエロバカタレは自身の置かれた状況を完全に把握した。 しかし、気付いた時には得てして遅いものなのだ。

 八方塞。

 いや、実際に道が一つしかない以上、確定してしまった未来。

 進む事も叶わず、戻る事も叶わない今の状況は・・・・さしずめ“ラブルジョワ・リスク”(意味不明)と言ったところか。

 少し視線を下げれば、潤んだ瞳が上目遣いに覗き込んでくる。 この視線には弱い。

 一瞬、その視線で直ぐ側に迫った恐怖を忘れてしまった義之は、極自然に顔を寄せ――

義之「・・・・」
ななか「ん・・・・」

 口付けた。

音姫「・・・・・・・・」

 頬に張り付く真っ赤な桜の花弁に気付いた頃には時既に遅く――


 コントの紙吹雪の様に、大量に落下してきた花弁に押し潰されて――


 改めて女の嫉妬は恐ろしい、と思った義之だった。


 続く――
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