Remix Heart
□Remix Heartー第五章ー
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音姫「あ」
義之「げっ!?」
人垣に囲まれていた音姉が、俺に気付いた。 途端、真面目な表情から一転、へにゃっとした笑顔を浮かべる。
音姫「弟君見っけ♪」
義之「うわっ!?」
「戦場では、一瞬の油断や判断ミスが命取りになる!」と、今日もどこかでスニーキングミッションをやってそうな人の声が頭の中に聞こえた気がした。
瞬身の術でこの場を去ろうとしたのだが、対応が刹那遅れたが為に、音姉は一瞬で俺の目の前まで移動していた。 流石はLCUナンバー3と言ったところか、その「えへへ」などと蕩けそうな笑顔を浮かべていなければ。
音姫「弟君、さっきの怪我は大丈夫? 今朝は登校中に会えなかったけど、ちゃんと朝ご飯食べた?」
義之「あ、ああ・・・・」
音姫「寝坊したんじゃない? ほら、髪の毛がはねてるよ」
そう言うと音姉は、俺の肩に左手を置き、爪先立ちになって俺の髪の毛を整えた。
密着した音姉から、ふわっといい匂いが漂ってくる。 渉が飯3杯とか言っていたのも強ち――――いや、やっぱり違うと思うが、いい匂いなのは間違いない。 頭がクラクラとしてきた。
義之「も、もういいよ」
何か理性がアラートを発し始めたので、慌てて距離を取る。
義之「それより音姉、仕事の途中でしょ?」
音姫「大丈夫、大丈夫♪」
何にこやかに笑ってんの!? 全然大丈夫じゃないって!
周囲からは俺達の関係を訝しむ視線や、嫉妬とか怨嗟の声が聞こえてくる。 こそこそと話してる様に見せかけて、実はわざと聞こえる様に言ってるだろ!?
はっきり言って、生きた心地がしない。 杏に“ビッグカップル”とか言われてた雄真達の気持ちも、今なら少しは理解できるかもしれない。
義之(だ、誰か助けてくれ・・・・)
と、周囲を見回した時・・・・
まゆき「ほれー、仕事するよ」
まゆき先輩がデレ姉・・・・じゃなかった、音姉を促した。
音姫「あ、まゆき」
まゆき「あのさぁ、音姫。 愛しの弟君の世話を焼くのもいいけど、みんな待ってるんだから仕事も片付けないと」
まゆき先輩は呆れ顔で音姉を諭す。 “愛しの”は余計だが、今は天の遣いに見えるから目を瞑っておこう。
音姫「あ、でも・・・・」
まゆき「デモもストライキもなし!! 今は世界経済と同じ位大変なんだから! て言うか、音姫ってば、ホントに弟君には甘いよねぇ。 過保護っつーか、弟離れ出来ないっていうか・・・・」
音姫「そんな事ないよ〜」
義之「・・・・」
みんな「・・・・・・」
聞こえているのかいないのか、音姉は俺の襟ホックを留めながら反論した。
まゆき「・・・・説得力全くなし。 つーか、あんたも素直に世話を焼かれてるんじゃない!!」
まるで応えない音姉から、俺に矛先を代えたまゆき先輩は、刺し殺しそうな勢いで指差した。
義之「いや、俺も止めてくれって何回も言ってるんですけどね」
俺は周囲に聞こえない様に、まゆき先輩に耳打ちする。 もう子供扱いはしないで欲しいと、今まで何回も懇願してきたのだが・・・・
音姫「だってぇ〜」
音姉が不満そうに唇を尖らせる。
音姫「服装の乱れは心の乱れなんだよ。 姉としては、弟君にちゃんとして欲しいし〜」
まゆき「・・・・・・」
義之「とまあ・・・・こんな感じで何を言っても聞いてくれないんです」
顔を引き攣らせるまゆき先輩に、俺は切々と訴えた。
達哉さん、雄真、東儀先輩、かなでさん、音姉の5人は、S4+B1と影で言われている。 “シスコンフォー・プラス・ブラコンワン”の略だ。 しかも、症状が軽い方から重い方に並んでいるあたり、この名を考えた人物の小賢しさが窺い知れる。
正直言って、音姉の過保護に関しては打つ手がない。