Remix Heart
□Remix Heartー第五章ー
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由夢は慌てて隣にあった“瓶の中身”を投入した。 あぁ・・・・やっちまった・・・・・・将軍、申し訳ありません。 敵(由夢)の侵攻を食い止める事が出来ませんでした。 我が兵糧(鍋)は、敵の化学兵器によって完全に汚染されました。
音姫「ゆ、由夢ちゃん・・・・それ、お酢だよ」
由夢「こ、これは隠し味です!」
いや、どう考えても隠し味の分量じゃないだろ・・・・・・
数秒も経たない内に、鍋から酢と醤油の濃厚な匂いが立ち上る。 強烈な酸っぱい匂いのせいで、目が痛くなってきた。
義之「・・・・・・」
音姫「・・・・・・」
さくら「・・・・・・」
はりまお「きゅぅ〜〜・・・・」
その場にいた全員が言葉をなくし、化学兵器・・・・もとい、水炊きだったモノを見つめる。
ボコボコと、粘性のある泡が幾つも現れては爆ぜるその物体Xから目を逸らし、俺は「さて」とさり気なくコタツから立ち上がった。
義之「それじゃ俺は達哉さんに幻術の勉強を教えてもらう約束があるからこれで失礼するよさようなら」
早口で一呼吸も置かずに捲くし立て、戦術的撤退を試みるが・・・・・・
由夢「兄さん、どこに行くんですか?」
義之「HAHAHA! 何を言っているのだね、由夢君? 今し方私は幻術の・・・・」
由夢「何を言っているんです、兄さん? 授業もまともに聞いていない兄さんが、幻術なんて高等な術を勉強するなんてありえません」
全く以ってその通りだが、そこまで断言されると小さな自尊心が傷ついて、逆に嘘を通したくなる。
義之「失礼な奴だな。 俺もこれまでの態度を改めて、これからは真面目に勉強をしようと思って、苦手な幻術を克服する為に達哉さんにだな・・・・・・」
音姫「あ、達哉君? あのね、弟君が・・・・・・」
義之「音姉!? ちょっ、タンマーーーー!!!!」
更に嘘を上塗りした俺を追い詰める様に、音姉が達哉さんに電話をしていた。 間違いなく一発でバレる!
由夢「・・・・・・・・」
音姫「・・・・弟君、嘘はいけないよ?」
さくら「義之君・・・・・・」
はりまお「あんっ!」
義之「ぬがああああぁぁぁぁっっ!!??」
音姉がニコッと微笑みながら電話を閉じた。
は、嵌められたああぁぁっっ!!??
由夢は呆れた表情で俺を見ている。 さくらさんは悲しげな表情をしている。 おまけに、はりまおにまで怒られた。
後悔先に立たず。
俺は今、激しく後悔している・・・・・・もっといい方法はなかったのか、と・・・・
由夢「さ、約束も“なくなった”事ですし、もう少し食べていったらどうです?」
義之「・・・・・・お前、これを俺に食えと?」
素敵な笑みを浮かべながら、信じ難い力でガシッと俺の肩を掴んだ由夢は、そのまま強引に俺を座らせた。 そして、そのまま耳元に顔を寄せ、俺に刑の執行を宣告する。
由夢「ちょっと失敗しちゃったけど、食べられると思いますよ? 多分」
義之「・・・・・・・・多分って」
十人中十人が、これはちょっとの失敗ではないと言うだろう。 さっきまでの美味しそうな鍋は見る影もなく変貌を遂げ、まるで重油かコールタールの様な姿になっていた。
分量を間違えたとしても、入れたのは醤油と酢だけだ。 色は似ているかもしれないが、どうしてこんなにも違う物質へと変わってしまうのか不思議でならない。