短編

□Dear 前編
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「寒っ!」
ひときわ吹いた強い風が、寒空の下研究室へ戻るジークの足を急がせる。

農園の地面は木の根がところどころ突っ張り出し、暗い中で歩くには注意が必要だが
暖を求めほぼ駆け足状態になっていたジークは、木の根に足をとられ見事に転倒してしまった。

「っ痛ぁー。」
そのままうつ伏せに倒れてしまい、額を雑草が生い茂る地面に強打する。

仰向けにごろんと転がり、すっかり冷え切った手をぶつけた額にあてると、腫れて熱くなった患部の熱をみるみる吸い取ってゆき心地よかった。
痛みに耐え閉じていた瞼をすっと開くと、ジークは目の前に広がった光景に額の痛みを忘れる。

真っ暗闇な空に無数に輝く光の粒、見慣れた白い光の他にも青や赤、金色の光が宝石のように空中に散らばっていた。

ところどころ薄い雲がかかっているものの、寒い今日は空気がよく澄んでいて、星の煌きもより一層美しく、無数の煌きの背景にはうっすらと白く輝く銀河の川が空を縦断するようにかかっていた。

きっと、今まで生きてきた中で見た星空で一番綺麗なものに違いない。
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