短編
□Dear 前編
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あぁ、明日はきっと嵐になる。
地平線近くにかかった薄い雲が暗闇にうっすら桃色ががっているのを見て、ジークはそう確信していた。
腕いっぱいに抱えた大きなカゴに収穫したばかりの精霊木の実を詰め、月明かりを頼りに暗がりの道を行く。
精霊木の実は、明日の実験に使う材料だ。
魔法を学ぶ、この学校に通い始めて3年。
ジークの魔法は一向に上達しない。
いわゆる落ちこぼれというやつだ。
最近では師にも見限られ、こうした雑用ばかりをさせられている。
周りからも、魔法の道は諦めるように諭されることも少なくない。
実際、才能の無いものは次々と学園をやめ、かと思えば才能のあるものは
1,2年で名を上げ一人前の魔法使いとして世に羽ばたいていく。
そんな実力がものを言う世界で、まともに魔法も使えず、諦め悪く3年もこの学園で
魔法使い見習いをやっているジークは、周りのものから見るとさぞかし哀れに見えるだろう。
今やっている、精霊木の実の採集も実験材料の収集といえば聞こえはいいが
この作業は本来、使用人や庭師などがやる作業の範疇である。
いくら見習いとはいえ、こんな作業をさせられているのはジークくらいだ。