陰惨たる図書館

□白雪姫
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それは自分も知りたい。取りあえずここまで辿り着いた経緯を、通じるかはまぁ別として、見てきた通りに説明してみた。この街に似た真っ白な世界の話を、ラジエルさんは頬を冷やしながら興味深げに聞く。



「うん…セフが関係しない所を見ると、私にもわかりませんね」

「そうですか…」



ギッ、ギッ、と階段の軋む音がした。カウンターから顔を覗かせると、下げられていた紫頭が私達に気づいた。



「何だ、お前また来たのか」



まだ聞いて新しい男の子の声。ナイトメアが仕事仲間と言っていたレヴィアタンが、眉間に縦皺を作って降りて来た。あの黒コートは脱いだのか、今は髪と同じ色のぴったりとした服を着ている。



「貴方の方こそ…確かラジエルさんとは仕方なくつき合ってるだけとか言ってなかった?」

「あれ、そうなんですか?レヴィアたん」

「あいつが起きないと帰れないんだ!あと!その呼び方はやめろっ!」



ほんの少しからかっただけなのに、どうも彼は頭に血が上りやすい人のようだ。レヴィアタンの親指の先、彼の後ろにはソファーに突っ伏したままのナイトメアが、毛布にくるまって気持ち良さそうに寝息を立てていた。



「え、もしかしてまだ今日なの!?」

「当たり前だろ。外見ろ外」



レヴィアタンに言われ、慌てて窓の外を見る。今夜は月が出てないのか、外は真っ暗だ。あの世界には長いこといたはずなのに、現実の時間はさほど経っていなかったようだ。



「うわぁごめんなさい!こんな遅くに来てしまって…」

「構いませんよ。夜は筆者が来る以外いつも退屈してるんです。毎日朝までの時間を潰すのって、本当に大変なんですよ」



逆に助かりますと、ラジエルさんは苦笑してオーバーに肩を竦めて見せた。



「退屈って、夜寝ないんですか?」

「ええ。こんな所にいるせいですかねぇ、今では寝る事はあまり無いんです。たまーにすっごく眠くなりますけど」



………?



何だかラジエルさんの様子がおかしい。それはいつも彼が貼り付けている顔の筈なのに、どこか微妙に違う印象を受けた。その笑顔に違和感を感じていると、レヴィアタンの低い笑い声が聞こえてきた。



「しかし派手にやられたな。上まで音が響いたぞ?」



カウンターに肘を置き、レヴィアタンはニヤニヤと笑いながら私とラジエルさんの腫れた頬を交互に見た。



「……はっ、ち違う!私じゃないよ!」

「あはは、筆者にやられちゃいました。見てくださいこれ、凄くないですか?」



何故か自慢気に差し出された黒渕眼鏡。当たり方が悪かったのか、横がグニャリと曲がってしまっていた。これではもう掛ける物としては役に立たないだろう。



「筆者って女か?相当の事をしでかしたみたいだな……」



壊れた眼鏡がそれを物語っている、とでも言いたげだ。よっぽどツボにはまったのか、レヴィアタンの語尾には隠しきれない笑いが混じっていた。



「酷いなぁ。あまり虐めるとあの事喋りますよ?」
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