陰惨たる図書館

□ひな祭り
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ナイトメアも躊躇なく入って行く。彼らが入って行ったのはショーウインドーが設けられた玩具屋さんだった。中ではぬいぐるみの周りをミニチュアの汽車が走り、その脇をドールハウスが飾っている。覗く店内は賑やかで明るく、筆者がいるにしてはあまり似つかわしくなかった。



「本当にここなの?」



こんな所に筆者がいるのか疑いを持ちつつも、可愛いらしいお店の扉を引いた。



「!?」



中は外から見える店内とは全く違っていた。広がっていたのは薄暗くてカビ臭い、木造の部屋。その異空間には勿論玩具も店員も客の姿もない。ただがらんとした寂しい部屋の真ん中に、黒コート二人組が佇んでいた。



「!」



汚れた赤い布に絡む黒い霧。そこに既に全身が霧化してしまった筆者がいた。人の形にはなっているものの、その大きさは妙に小さい。



「これであと二つだね」



ナイトメアがポケットから時計を取りだし、筆者にかざした。筆者は逃げる様子も無くじっとしている。その代わり、辛うじて形を残していた口の部分がゆっくりと開かれた。



『 着物を着替えて帯
  しめて 今日は私
  も晴れ姿 春の弥
  生のこのよき日
  何より嬉しい雛祭
  り 』

「!」



詩をうたう女性の声。それが確りと私の脳内に響いた。蓋が開き、狭い部屋に突風が吹き荒れる。赤い布が激しくはためき、小さな霧はあっという間に時計の中へ吸い込まれてしまった。



「あと二つって、探すのは一人じゃないの?」

「どれも同じ物語だ。だが今回の奴は霧化が進みすぎてバラバラに分散してしまってる」

「それを回収して〜セフに届けるのが今日の仕事なんだ」



パチン、と時計の蓋を閉じ、ナイトメアはくしゃくしゃになった書状を見せてくれた。だけど残念ながら使っている字が違うらしく、私には何と書かれているのか全く読めない。



「お前、まだついて来る気か?」



目の前から紙が消え、眉間にしわを寄せたレヴィアタンが割り入って来た。



「勿論」

「…はぁ、もう勝手にしろ」



但し邪魔はするな。それだけは執拗に念を押し、彼はまた先頭をきって部屋を出ていった。



異空間から抜け、私達は再び町中へ戻って来た。その矢先、レヴィアタンは迷う様子も無くこっちだと断言すると、するすると人の間を抜けて行ってしまった。私も見失わないよう必死について行く。ただナイトメアだけは何時もと変わらず、のんびり歩調でついて来た。



レヴィアタンが次に立ち止まったのは学校の前だった。校庭では子供達がサッカーをして遊んでいる。人が見ていても彼はそんな事などお構いなし。気にせず門を潜り、気が付いたら目の前から姿を消していた。



しかし突然人が消えたのに、誰も気にしている様子がない。レヴィアタンが消えた辺りを、子供達は何事も無かったかのようにボールを追いかけていた。



どうなってるんだろう?
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