頂き物
□拝啓、傍観者な元恋人様
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「未練って・・、誰にでもあると思うの」
少女はゆっくりと告げて、黒い封筒を閉じる。木漏れ日が差す森林の中で、封は静かに閉じた。少女はそっと、黒い手紙を撫で下ろし、自分よりも身長の低い黒髪の少年に手紙を渡した。
「だから、私が彼にこれを出すのは絆とかそういうのじゃなくて、未練を失くす為。そう思っていてくれないかな?」
「別に知らないよ。僕はただ届けるだけ」
少女の言った言葉に対し、少年はにやにやと厭らしいくらいに笑みを浮かべて言う。少女はそんな言葉にさえ、にっこりと笑い返し、そう、と答える。森林の中で、ふわっと柔らかい風が吹く。風と共鳴するかのように森林の木々達は揺れ、葉と葉が擦り合うような、優しい音に包まれる。
「ねぇ、D君」
「何?」
「この森林、素敵だと思う?」
突拍子もないそんな質問に、少年、否、黒やぎのDは、やや表情を歪め、そして「全然」と答えた。少女は「やっぱりそうだよね」と答える。おそらく、初めてこの森林に来た人ならば、ここをどこかわからずに来た人間なら、この森林を素敵な場所、と言うだろう。でも、知ってしまっている人は、そうは言わない。
「じゃあ、お手紙届けてね」
少女がDに言った時、既にDはいなくなっていた。少女はくすりと笑い、「仕事の早いやぎさん」と、茶化すように、森林の奥から出てきた茶髪の少年に言った。無表情な茶髪の少年に、少女は話しかける。
「L君はどう思う?」
Lと呼ばれた茶髪の少年こと、白やぎは露骨に表情を変えはしないものの、多少眉を潜め、「全然素敵には思えません」と、Dと似たり寄ったりな返答をした。
「ふふ・・。やっぱりそうだよね。この森林を素敵とか言ってる子は世間知らずだよね」
「世間知らず・・・かはわかりませんが、とりあえずこの森林は素敵とは言えないと思いますよ?だって・・、」
「だって、この森林は『血塗れ』だから?」
「・・・」
Lは何も答えずに肯定した。森林は、『血塗れ』なのだ。そういうと、森林には緑と赤の世界が広がっているように思われるかもしれないが、そうではなくて。そうではなくて、森林は、『血塗れ』なのだ。綺麗に痕跡が消されているものの、そこは何十、何百、何千何万という人が、『人喰い』という化け物達に喰われて来た場所なのだから。
「でも、私は素敵だと思う」
「自分の殺された場所だというのに?」
「うん」
「どうして?」
「どうしてかな?」
少女は、笑った。