金色のムトンと真っ赤なルブト

□第三話
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「はぁ…困りましたね、マルコ」

『うん……』


メイド達の仕事も一息ついた昼下がり。ルーチェは窓に切り取られた晴天の空を眺めながら、主に隠れてこっそりと自分用に取り寄せた紅茶を傾け、一時の休息を堪能していた……筈だった。


「今回こそは絶っ対に許しませんわ!」

「だからあれは私じゃないんだってば。お願いだから信じて…?」

「いーえ!犯人は間違いなくオネット姉様ですわ!犯人が貴女でないのなら、他に誰がいると言いますの?こちらには証拠が揃っているのですわよ!?」

「ドルアーガちゃん…」

「はぁ……」


あまり穏やかではない少女の声が、折角ゆったりと出来るルーチェの癒しの時間を消耗していく。本来なら楽しいお茶の時間になる筈が、何故今日はこんなにも不穏な空気になっているのか。その発端は、他人が聞けば実にくだらなく思える理由だった。


「二人とも、いつまでそうしているつもりですか?いい加減になさい」

『そうだよ、喧嘩はダメなんだよ?二人でごめんなさいしよーよー』

二人と同じテーブルを囲む形になったルーチェが、叱り付けるような口調で妹達の中に割って入った。それに便乗した子犬のマルコも、彼女達の足元から必死の仲裁を試みる。しかしそんな二人の言い分も、リスのように頬を膨らます末妹には差し出口にしか聞こえないようだった。


「あら、私(わたくし)は何も悪くありませんのに、何故謝らなければならないのです?それに今更オネット姉様に何を言われたって、私は許す気持ちなど元よりありませんから」


シープに仕えるメイドの三姉妹…その一番下の妹であるドルアーガが、真っ青な長いツインテールを揺らしてそっぽを向いた。対して気の強い妹の態度にすっかり気圧されているオネットは、一方的に攻められるだけで目に涙を湛えるばかり。しかしそんな気弱な彼女も、彼女なりにこの問題の解決の糸口を探しているらしい。チラチラとドルアーガの様子を窺うオネットだったが、やはりそれ以上の勇気は出ないらしく、結局は何も言えずに俯くだけだった。


「はぁ…ドルアーガ、たかがお菓子の一つや二つ食べられたぐらいで、何をそこまで怒る必要があるのです。貴方ももうそこまで子供と言うわけではないでしょう?」


この様子ではいつまで経っても話が進展しない。頑固なドルアーガと、はっきりしないオネットを見兼ねたルーチェは、まず下の妹の説得に乗り出した。


「あのお菓子は私が兄様から頂いた特別な品なのです!大事に取っておいたのに、それをオネット姉様が勝手に…!」


テーブルを両手で叩きつけたドルアーガが、キッときつく絞った目でオネットを睨みつける。その音と迫力に一瞬怯んだオネットだったが、彼女も負けじときっぱり無実を証言した。


「だ、だから私は食べてなんかいんだってば…!お菓子の包みを持ってたのだって、あれは落ちてたのを拾っただけで…」

「そんなの嘘です!信じられませんわ!」

『もう、喧嘩はやめてー!』


ぴょいんっと二人の間で飛び跳ねるマルコが、喧嘩を止めようと訴えかける。その懸命な姿に一度冷静になったドルアーガだったが…その瞬間、彼女の頭の中でマルコには予想外の考えが打ち出された。


「…そうですわ、何も疑わしいのはオネット姉様だけに限った事じゃありませんものね」

『え?……え?』

「まるちゃん…まさか…」


二人の眼差しに疑いの色が見え隠れする。事を理解し、焦ったマルコは必死になって首を振った。


『ち、違うよ!僕じゃないよ!本当だってば!』

「必死になる所が余計に怪しいですわ」

「くんくん………仄かに甘い香りがするような」

『そんな!?』


マルコを抱き上げたルーチェが、鼻を近付けて匂いを嗅いでみる。その鑑定結果にますます疑いがかけられていく現状に、マルコの黒くて大きな瞳が潤みだした。


『この匂いはさっきルーチェさんと食べたお菓子のせいだよ!ドルアーガさんのお菓子は本当に知らないんだから信じてよー!』

「この駄犬が…。兄様のお菓子をつまみ食いした罪、ちょっとやそっとの事じゃ済まされませんわよ」
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