山羊さん郵便
□拝啓、恋人様
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『拝啓、恋人様』
激しく打ち付ける雨。
車通りの少ない山道。
歪んだガードレール。
壊れてしまった時計。
私の恋人は地面に伏せり、横転した車の中に向かっていつまでも泣き叫んでいた。
『ねぇ、私はここにいるのよ…?』
話し掛けても、もう私の声は彼に届かない。同じ場所に立っているのに、私は彼のように雨に濡れる事すら出来ない。
『泣かないで。こっちを見て。私はここにいるの』
震える肩に手を伸ばす。だけどそれは服にさえ触れることも叶わず、簡単にすり抜けてしまった。
『………』
もう、一緒にいられないのね……。
「彼との関係、まだ続けたい?」
『!』
突然声を掛けられ、顔を上げた。横転した車の上に、顔のよく似た二人の少年達がいる。白と黒の傘をさして、着ている服も黒と白の色違い。だけど右腕にある赤い腕章だけはどちらも同じものだった。
『誰…?私を迎えに来たの?』
黒髪の子がクスクスと笑う。彼らの揃いの腕章、それには大きな郵便マークが描かれていた。
「僕はD。君から彼へ手紙を送る黒やぎだよ」
「俺はL。彼から貴女へ手紙を届ける白やぎです」
黒髪の子はニコニコと笑い、楽しそうに言った。茶髪の子は何の表情も浮かべず、静かに話した。
『手紙?』
「君達の絆、まだ持っていたいでしょ?」
「彼に伝えたい事、ありませんか?」
「僕らなら出来る。叶えてあげる」
「それも無償で半永久的に。さぁ」
「どうしますか?」
「どうするぅ?」
彼らの声はこの煩い雨の中でも、不思議と鮮明に聞こえた。その彼らの真下にいる恋人は二人に全く気付いていない。Dのつり上がった赤い眼光と、Lの垂れ下がった青い眼光が、私の答えを待つ。決めるのは、私。
これは救済なのか、それとも誘惑なのか。例えどちらだとしても私は……。
『彼と…まだ繋がっていたい……!』