燃え残ったページ

舌切り雀
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お日様みたいに笑うあの人。
枝を沢山つけた大木のように逞しいあの人。
草や花と同じ優しい匂いがするあの人。


私もあの子もそんなあの人の事が大好きだった。
私達は皆とても仲が良かった。

だけどあの人が好きなのは私ではなく、私よりも小さくて可愛いらしいあの子だった。





「ちゅんちゅんちゅん」
「チュンチュンチュン」


私達は歌がとても好きだった。あの子はとても綺麗な歌声を持っていた。あの人はあの子の歌が好きだった。だから私もあの人の為に、あの子の真似をして上手に歌った。あの人は上手い上手いと褒めてくれた。だけどそれは所詮ただの真似事だ。結局あの人が好きなのは、あの子の声だけなのだ。私は何時しかあの子の事が…堪らなく憎たらしくなっていた。





あの人には言えなかった。私はあの子にとても酷い事をしてしまった。私のせいで歌を歌えなくなったあの子は、この家を出てってしまった。何も知らないあの人はあの子を追って、山の中に行ってしまった。私もあの人を追って山に入った。だけどいくら探しても、あの子の姿は何処にもなかった。



もうあの子はいない。ここにいるのは私だけ。私は心を決めてあの人に尋ねた。もしもう一度あの子に会えたとして、私とあの子、どちらを選ぶのか。

あの人は答えた。あの子を選ぶと。それは分かりきっていた答えだった。もう僅かに残されていた期待も希望もなくなった。私は彼に向かって飛び上がると、あの人と共に崖の下へと落ちていった。







「おーい!じいさんを見つけたぞー!」

「こりゃ酷い…きっとあそこから足を滑らせちまったんだろうなぁ」

「まるで百舌鳥のはやにえだ。早く木から降ろしてやろう」

「しかし、なんでまた今の時期に一人で山になんか行ったのかねぇ…」






『チュンチュンチュン…キィキィキィ…』

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