山羊さん郵便
□拝啓、恋人様
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「こんなやり取り…いつまで続くんだ…?」
「彼女に手紙を出す意思が有る限り、僕は何度でも君の所に来るよ」
バイト先から帰宅すると、鍵を掛けていた筈なのにこの黒やぎは勝手に俺の家へ上がり込み、勝手に人の漫画を読み散らかして寛いでいた。
「…もうたくさんだ。半年だぞ!?こんな事を続けてもう半年だ!このままじゃ俺の方がおかしくなってしまう!」
彼女が死んでから度々届く黒い封筒。初めの頃は彼女と今だ繋がれている事が嬉しくて、喜んでその封を切っていた。だが時が経つにつれて次第に恐怖が勝りだし、今や捨てるのも怖くて未開封のものばかり溜まっている。そして今日もまた黒やぎから新しい手紙が届いた。
「くそっ!」
「あ〜ぁ」
俺は中身も見ずに、その封筒を破り捨てた。黒やぎは声を上げたが、宙に舞う紙片には目もくれず、ただ漫画に集中していた。
「何とか止めさせるしかないか。……よし、今日は返事を書いてやる!少し待ってろ!」
だからそれは僕じゃないってば。そう言い残し、黒やぎは消えていった。千切った大学ノートに彼女への返事を書き、適当な封筒に入れる。この手紙に宛名や切手はいらない。
「これでいい」
「出来ましたか?」
最早施錠の意味は無し。勝手に俺の家に上がり込んでいた白やぎは、勝手に散らかっていた漫画を勝手に片付けていた。
「ほらよ」
封もされないまま、手紙は白やぎの手へ渡った。やぎは床に散らばる黒い紙きれを見つけたが、それには何も触れなかった。
「では、失礼します」
俺の手紙を大きなオレンジ色の鞄にしまい、白やぎは消えていった。