捧げ物
□陰惨たる図書館
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「ここでじっとしてる?」
まだ昼間だが、部屋の中は薄暗い。いるなら明かりを点けるつもりでスイッチに手を触れると、セフが黙って頷いたので、ラジエルはパチンと明かりを点けた。照らされた部屋には椅子がないため、セフは仕方なくベッドに座る。彼が落ち着いた所を見届けて、ラジエルは直ぐに部屋を出ようとした。だが、その背中をセフが名前を呼んで引き止めた。
「あのさ、多分見ちゃうのは先代の記憶が僕の中にあるからなんだと思うんだよね……」
「……?」
セフの言葉の意味を理解するまで、ラジエルはほんの少しの時間を要した。床につかない足をぶらつかせて、決して顔を上げる事はしないまま、本はぽつりぽつりと言葉を漏らす。
「先代のセファーが君をいつも見守っていたから、この新しい体も記録になぞって動いてる、のかも。いつもじゃないけど。それに、綺麗になっていく部屋を見てるのは嫌いじゃないし、料理してる背中とか、編物してる手とか、何か物を作ってる姿は飽きないし、ナイトメアみたいにイライラしないし……」
「イライラって……」
視界にいるだけでイライラされているのか、と思うと、ラジエルはナイトメアが少し不憫に思えた。にしても、セフはなかなか用件を言い出さない。言い出せないのかもしれない。なので彼の言葉を頭の中で要約すると、だ。つまりは今まで通りでいいのかと、意思とは関係ない視線を向けられて不愉快ではないのかと、そう尋ねたいのだとラジエルは推測する。
「別に構わないよ」
ピクッと顔を上げたセフに、ラジエルはでもと後を続けた。
「どうせなら見るだけじゃなくて、毛糸を巻きなおす手伝いくらいして欲しいけど」
「それはやだ」
管理人の期待は僅かに考える間も与えられず、正直な言葉に一蹴されてしまった。そうこうしている内に、一階からタオルを要求するレヴィアタンの声が、ラジエルを呼び始める。ラジエルはセフに、今の答えをもう一番考え直してくれと頼むと、毛布とタオルを持って下に降りて行ったのだった。
終わり