金色のムトンと真っ赤なルブト

□第三話
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「は、はい…!えっと、今のは四条さんと言って、この街の一番大きな財閥で執事をしている…」

「そんな事を聞いているのではありませんわー!」


だんっと廊下に拳をたたき付けたドルアーガに、少女の華奢な体が震え上がった。どうにもこの少女、言動や容姿がオネットと重なり過ぎてドルアーガと反りが合わない。危うくシープの前で地が出そうになったドルアーガだったが、それは皮肉にも少女の発言によって免れた。


「わ、私…本当は男の人が大好きなんです」

「……はあ?」

「でも近付かれると怖くて…二人きりにされると、何を話していいかわからなくなるんです。だから恋愛とかに憧れてて、そういうのを扱った小説や漫画が好きで…それでこんな夢を見るようになったんですよ」


少し照れ臭そうに喋る少女が、ドルアーガに上を注目よう指を差す。それに応じたドルアーガの視界に、突然電光のような光りを点す、可愛らしい字体の文字が浮かび上がった。


「ど、『ドリームロマンス』…?なんなんですの、このふざけた名前は…!」

「ドリロマはこの世界の名前です。なんと私が主役なんですよ?」


少女が嬉しそうに語る。その様子に、ドルアーガは頭が痛くなるような感覚を覚えた。


「まるでゲームの世界ですわね…。ふざけるのも程ほどにして頂きたいですわ」

「ゲーム…いや、本当にゲームが舞台なのかも。ほら見てドルアーガ、僕らの喋ってる言葉が全て吹出しになっている」


起き上がったシープが、全員の頭上に現れた不思議な枠の存在を指摘した。今彼の頭上にある薄くて透明な枠には、今シープが喋ったことと、全く同じ文章が書かれている。言われて気付いたドルアーガも試しに何か口にしてみると、やはりほぼ同じタイミングで枠に文字が浮かび上がった。


「本当ですわ…。兄様、少し休まれなくとも平気ですの?」

「なんとかね。それに彼女の正体を知る、乃至ここから出るには、まず行動を起こさないといけないし」


シープが立ち上がると、天井に浮かび上がっていた電光のタイトルがパッと消え、不思議なメロディが鳴り響いた。同時に次の動作が展開され、テロップにプロローグが流れ始める。


「さぁ、ゲーム開始だ。君とこの世界の情報を得る為に、先ずは誰かに接触しよう」







館の中を探索するに辺り、シープらはまずヒロインである少女から、この世界についての情報を聞き出していた。ヒロインの少女曰く、この世界には四条を含めた5人のキャラクター達が存在し、その内の誰かと恋人同士になれればハッピーエンドを迎えるらしい。しかし実際には少女もそこまで行ったことがなく、いつもはただこの世界観を楽しんでいるだけなんだとか。


「それで西屋君はパティシエを目指していて、いずれは留学を考えているんです。凄いですよね」

「はいはい、もう説明は結構ですわよ…。もう誰が誰なんだかごっちゃになっていますわ…」


館の捜索中、少女からずっとゲームの中のキャラクターを説明されていたドルアーガは、もうお腹一杯だと言うように一人黙々と部屋を覗き回っていたシープに抱き着いていった。こうしてシープの側にいれば、少女が寄ってくる事はない。ドルアーガにしてみれば一石二鳥だが、話し相手に逃げられてしょぼくれる少女を見て、シープは困り果てたように頬を掻いた。


「あの四条とか言う男以来、全く誰とも会いませんわね」

「うーん…もしかしたらこうして闇雲に探すより、何かきっかけを作らないといけないのかも」

「例えば?」

「そうだなぁ…例えば―――」
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