金色のムトンと真っ赤なルブト

□第三話
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「本当にごめんなさい!ごめんなさい!」

「…なんだかこの方、オネット姉様みたいでムカつきますわね。容姿も似たような系統ですし?」

「ドルアーガ…そんなこと言っちゃ駄目だよ」


何度も謝っては縮こまっている少女が姉と重なったか、ドルアーガの少女に向ける目が人を見下すような目つきになった。一応はシープが注意したものの、彼女は完全に持て成す側だと言うことを忘れている。少女も少女で何か言い返せばいいものを、彼女は何故自分が苛つかれてるのか理由がわからず、ただ謝るばかりだった。


「兄様、こういう方はこちらから強引に話を進めないとどうにもなりませんわ。さっさと思い出させてあげましょう?」

「あ、あの…どちらかと言うと私もそうして頂けると幸いです。あの夢の中だと、私も一人じゃどうにも出来ないので」

「君がそう望むなら構わないけど…ドルアーガはもうちょっと柔らかくね。彼女はお客さんなんだから」

「心掛けますわ」


シープの不安に、ドルアーガが踏ん反り返りながら答える。そういう所が心配になる要因の一つなのだが、夢の侵食は既に刻一刻と始まっていた。急に黙り込んだ館の住人達に、少女が落ち着かない様子で辺りを見回す。ルーチェから聞いた話では、なんでもシープは夢主の世界を現実に引っ張り上げる事が出来るんだとか。その話を疑っている訳ではないが、部屋の様子が全くと言っていい程変化がない事に、少女は僅かながらの不安を持ち始めていた。


「そろそろいいかな。一旦外へ出てみよう」


シープの提案から、三人は少し辺りを散策することになった。しかし部屋を出た先の廊下も特に変わった様子は見られず、注意すべき所がまるでない。本当に自分達は夢の世界にいるのか?少女がそう感じ始めた頃、廊下の曲がり角から突然黒い影が飛び出し、先頭を歩いていたシープと正面衝突をしてしまった。


「いたっ!たたぁ…」

「兄様、大丈夫ですか!?…ちょっと貴方なんなんですの!?主を転ばせるなんて……え?」



尻餅をついたシープに駆け寄ったドルアーガが、角を飛び出してきた影に向かって剣幕をぶつける。大方使用人の誰かだろうと踏んでいたドルアーガだったのだが、影の正体を見た彼女は怒りと共に言葉を失ってしまった。


「大丈夫ですか?お嬢さん。どこかお怪我はありませんでしたか?」

「おじょ……」


違和感のある呼ばれ方に、ドルアーガに続いてシープまでもが硬直してしまう。爽やかな風と共にシープへ差し延べられたのは、真っ白い手袋をした綺麗な手。その先にいたのは、びしっと決まる燕尾服に身を包んだ、美しい大人の男性であった。


「申し訳ありません。急いでいたもので、注意を怠っておりました」


男性が何かを喋る度に爽やかな風が舞い上がり、男性が何かと笑顔を振り撒く度にキラキラとした光りの粒子が現れる。まるで少女漫画の演出のようだ。“お嬢さん”と呼ばれはしたが、本物のシープには生物学的な男女の性は恐らくない。もしかすると間違ってはいない表現なのかもしれないが…それでもいい気持ちがしないのは、やはり精神的なものが強いのだろう。男性は動けないシープの手を取り立たせてやると、改まって深く謝罪した。


「お怪我がないようで本当によかった。それでは私はこれで……あ、そうだ」

「う゛っ!?」

「お手を汚してしまいましたので、よかったらこれを使って下さい。それでは」


去り際掴んだシープの手にハンカチを握らせ、素敵な笑顔を残して颯爽と駆けていく燕尾服の男性。それを呆気に取られた表情で見ていたドルアーガの前で、折角立ち上がらせてもらったシープが、ゴロンと床に寝そべってしまった。


「に、兄様!?いかがなさいましたの!?」

「もう駄目だドルアーガ。僕もう今回はやる気が起きないよ」

「な…!い、いけませんわ兄様!しっかりなさって下さいまし!」


両腕を抱いて寝転ぶ主を、ドルアーガが必死に揺すり起こす。だがシープは生気をなくしたように宙を仰いでいるばかりで、全く力を入れようとしなかった。吐き気のするような香水の匂いがついたハンカチを投げ捨てさせ、ドルアーガが夢主である少女に説明を要求する。


「これは一体どういう事ですの!?しっかりきっちり説明して欲しいですわ!」
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