捧げ物
□11400hitキリ番
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しかし猫は一瞬こちらを見たばかりで、直ぐにそっぽを向いてしまう。それきり回り込んで餌をちらつかせようが、音を鳴らして興味をそそろうが、全く見向きもしてくれなかった。
「おかしいなーあのシラタキが餌に食いつかないなんて…」
「きっと飛び降りるには高すぎるんだよ」
あいつにも食欲より勝る物がこの世にあるとは。感心、そしてここで万策は尽きた。呼び掛けも駄目、登るのも危険、飴と鞭は効果なし。だとすれば次はどうしたらいいのか、改めて頭を捻らせる。すると今度は九十九さんが動きだした。
「ええい…こうなったら手段を選んではいられぬか。四朗!」
「?」
秘策あり。何かよい考えが浮かんだのだろう、九十九さんが四朗さんを近くに呼び寄せる。しかしそう踏み切ったものの、何故か九十九さんは中々その策を皆に言いたがらなかった。不思議に思いながらも続きの言葉を待っていると、やがて覚悟を決めたような声で呟いた。
「わ、わしをか、かか…肩車、しろ…」
「………」
四朗さんが固まった。
「捨て身の策ですね…」
「煩い黙れ!!わしとて嫌に決まっているだろうが!しかしもうそれしか方法が無いのだ!」
確かにこうとなっては自分達が行くより猫を救う術はない。この必死の打開策には九十九さんも助けられなかった時に起こりうる事態と天秤にかけたようだった。それを理解した上での事なのか、四朗さんも諦めたように頷く。
「でも九十九様?それでもまだシラタキちゃんには届かないんじゃ…」
「八重も入れる、それでなんとかなるだろう。早くしろ」
「………」
「痛!ちょっ、僕が馬ですか!?」
背中を蹴り上げた四朗さんの目は『絶対に下にはなりたくない』と言っていた。普通に考えればあんたが下の方がいいだろう。そう言いってやりたいが、残念ながら僕にそんな勇気がある鬼は宿っていない。
「分かりましたよもう…」
あまりもたもたしているわけにもいかず、僕は大人しく地面に四つん這いになる。自分で切り出した案とはいえ、やはりこれは乗り気れるものでは無い。青い顔をした九十九さんはしゃがんだ四朗さんの背中を複雑そうに見つめていた。
「よもやこんな事になろうとはな…弟の肩に乗るとは情けない…」
「………」