雛鼠作

□お買い物編前日
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「なあ、明日暇か?」

サスケが帰り支度をしていると、ナルトが声をかけて来た。

「ああ、特に用事は無い」

珍しい事もあるもんだと思いながらも、特に予定が入っていなかったので返事をする。
それを聞いたナルトは青い目をキラキラさせて、マジでっ?!とガッツポーズを作る。
その様子に違和感を感じて問い掛けようと口を開きかけると、突然ナルトが顔の前で両手を強く打ち合わせる。

「頼む、付き合ってくれ」

突然の事にナルトから告白か?と一瞬暴走しかけるサスケだが、すぐにナルト限ってそれはないと気持ちを立て直す。

「どこにだ?」
「えーっと、渋谷?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ナルトが疑問符付きで言った所は、首都圏の若者ならば1度は行った事があるであろう町だった。

聞けばシカマル達と遊んだ時に散々私服をからかわれたらしく、遠足に着ていく服を選ぶのを手伝って欲しいと言う事で、理由も目的も今ひとつ面白く無いが、自分を頼ってくれた事と初めて学校の外で会える事に嬉しくなる。

ハチ公前に10時と約束してナルトは帰って行った。
しかし、サスケは人混みが嫌いで渋谷などの人口密集地帯へ行く事はあまり無いため、店なども良く知らない。
しばらく悩んだ結果、シカマルに聞く事にした。


「今、暇か?」
「お、どうしたんだ?お前から話しかけて来るなんて珍しいな」
「聞きたい事がある、渋谷辺りで流行の店を幾つか教えてくれ」

サスケから話しかけられる事など滅多に無いので面白がっていたシカマルだが、サスケと縁遠い地名に首をかしげる。
それを見たサスケは、仕方なくナルトに頼まれた事を話す。

「あー、そんなに根に持ってんのかアイツ。にしても渋谷とはね」
「どこに行きたいのか聞いたら、疑問系で言われた」
「おそらく、渋谷以外にイマドキって感じの服を売ってる場所が想像できなかったんだろう」

そこまで言うとシカマルは急に笑い出す。
サスケが訝しげな顔をすると、悪い悪いと言って笑いを抑える。

「いや、この前初めてアイツの私服を見たんだが、学ランからは想像できない服装につい笑っちまったんだ」
「そんなに・・・その、まじめな服なのか?」
「なんっつーかアレは・・・、幼い?」
「幼い?」

不良仕様の長ランからは想像できないと言うからには真逆のスーツのような服なのかと思い、まじめな服と称したサスケだが、シカマルはそれを否定する。

「ま、会ってからのお楽しみにしとけよ」

まったく想像出来ずにサスケが黙り込むと、考えるだけ無駄だと言われてしまう。

「よ、何やってんだ?」

シカマルに窘められるサスケを見つけたキバが、面白そうだと会話に混ざってくる。

「ナルトの洋服選びに誘われたんだと」
「って事は、遠足の時にアレ系の服が見れねーのかよ」

シカマルが話の内容を簡単に説明すると、キバが残念そうな声を出す。
そもそもこのような事態になったのはキバが(ほぼ主犯と言って間違えないだろう)からかったせいなのではないかとサスケが指摘すると、そうか?と悪びれもせずに答え更に残念がる。

「で、サスケは店をよく知らないから教えて欲しいんだと」

いつまでも残念がっていそうなキバに、渋谷ならお前のほうが詳しいだろとシカマルが話を向ける。

「幾つかお勧めの店教えるぜ。いつ行くんだ?」
「明日だ」
「明日かー、じゃあメアド教えろよ。明日までに地図送ってやる」
「助かる」

サスケの礼の言葉に明日雨が降らないことを祈ってるぜと余計な事を言いつつ、携帯をいじりながら渋谷〜渋谷〜と妙な節に合わせて歌いだす。
最初っからシカマルの側にいたにもかかわらず、今まで話にも加わらずお菓子を食べ続けていたチョウジが、そういえばと急に会話に入ってくる。

「明日はこないだみたいな服なのかな?」
「うわ!見てー」

チョウジの言葉にキバが騒ぎ出す。
付いて行こうかとまで言い出したキバを、シカマルが抑える。
それでも諦め切れないらしいキバは、暫らくぶつぶつとつぶやいた後、名案とばかりに手を打つ。

「なあ、プリクラ撮って来いよ」
「男2人でか?」

それは昨今女性専用のようになっている、ゲームセンター必須のアイテムで、男だけで撮るのは痛いどころかお断りまでされる物で。
実際に使った事は無いが知識として知っていたサスケは、明らかに嫌そうな顔をする。

「へーきへーき、俺らも撮ったし」
「人数が違うだろう。それに、アイツが俺と撮ると思うか?」
「いい策がある」
「策?」

キバの表情にろくな事では無いと感じるも、コチラが情報提供を頼んだ以上聞かなくてはならないだろうと、付き合いは悪いくせに妙なところで律儀なサスケは聞き返す。
それを見ていたシカマルは、隣のチョウジに難儀な性格だなとこっそり耳打ちする。

「アイツはラーメンに目が無いんだ。プリクラを撮ったら俺にメールしろ。とっておきのラーメン屋を教えてやる」
「それが策か?」

案の定、大した内容ではないキバの言葉に、サスケの目が少しきつくなる。
そこにシカマルが助け舟を出した。

「ナルトのラーメン好きを甘く見ない方がいいぞ。そのラーメン屋ってこの前キバが教え損なったって言ってた所だろ?ナルトのやつ丸1日ヘコんでたからな。プリクラ程度で済むなら喜んで撮るんじゃねぇか?」

シカマルが冷静にフォローする。
どんだけラーメンが好きなんだと呆れつつも、シカマルが言うならとうなづく。

「ナルトは解った。しかし、最近は男だけだと断られるんじゃないか?」

ナルトと撮りたくないわけがないサスケだが、面倒な事は避けたい。
実際にゲーセンに行って断られるような痴態は避けたかった。
それで先ほどの質問になったのだが、それを聞いたキバ達はにやにやと笑う。

「お前なら問題ないだろう。なあ?」
「ああ、むしろ歓迎されるだろうな」
「うん。大丈夫だよ」

キバとシカマルだけでなくチョウジにまで大丈夫と言われたが今一つ納得できない。
意味が解らないと説明を求めるサスケを、食い気味にキバが征す。

「それよりも、メルアド教えろよ」
「あ、ああ」
「赤外線付いてるよな?」
「ああ」
「じゃ、送信してくれ。・・・・・おし来た。」

その時、サスケのアドレスを登録したキバの目がキラリと光ったのを、シカマルは見逃さなかった。

「おい、サスケ」
「なんだ?」
「キバに個人情報の保護について説明しといた方が良いぜ?」
「?」

キバのアドレスを登録しながら返事をしたサスケだが、シカマルの言葉の意味が解らず顔を上げる。
キバも作業の手を止めて顔をシカマルへ向ける。

「売ったら犯罪だって言っとけ」
「な、なにを!?」

ズバリシカマルが言うと、キバが慌て始める。
それでサスケもようやくシカマルの言っている事が理解できた。

「女子に俺のアドレスが売られるって事か?」
「ああ、アドレスは変えられるからまだいいが、電話番号は消しとけ」
「や、やだなー。シカマル君は何を言い出すのやら」

俺がそんな奴に見えるか?などと弁明しているキバだが、言えば言うほど嘘くさく聞こえてくる。
サスケのアドレス、特に携帯の番号はごく限られた人しか知らない貴重な情報で、大金を出しても知りたいと言っているサスケファンが何人もいる事は、校内でも周知の事実だった。

「キバ」
「は、はい!」

サスケは声を低くして、まだ何かを必死に言い訳しているキバを呼ぶ。
キバはその声にビビってひっくり返った声で答える。

「周りに知らせるなよ」
「するわけないだろ!」
「そうか、それは良かった」

サスケは注意だけで終らせたが、キバを良く知るシカマルの手によって、アドレス以外は全てキバの携帯から消去されてしまった。

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