雛鼠作

□雷を君にあげる
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しばらくすると、人の話し声で目が覚めた。
聞いた事の無い男の声。
どうやら窓の外で、男が誰かを叱っているようだ。
人んちの前で何をやっているのかとイラっとするが、まだ寝ていたかったので寝返りをうって寝直そうとする。
枕に両手でしがみついて寝ようとして、子供の感触が無いのに気が付き飛び起きる。
窓の外をみると、子供の姿が見える。

「おまえ、父ちゃんいたのか?!」

そう言いながら窓を開けると、男の顔が見えた。
その顔をみて、ナルトは少し固まる。
男は子供と同じで、さらに整った顔をしているので見とれてしまった。
着物を改造したようなちょっと時代錯誤な格好をしているが、子供がいる年には見えなかった。
むしろ・・・。

「あ、わりぃ。兄ちゃんだったか?」

それはともかく、家族がいてよかったとナルトは喜ぶ。
しかし子供はもちろん、男もこちらを見たまま何のリアクションも起こさない。
男にいたっては驚いた顔でこちらを見ている。

「あのさあ、兄ちゃん。こいつの名前なんつーの?何聞いても返事してくんなくてさあ。しかも名前が無いとか言うんだぜ」

ナルトは、子供の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら横にいる男に声をかける。
しかし、反応が無い。

「あれ?兄ちゃんさっきまでコイツの事怒ってたよなあ?」

さっきまで確かに声が聞こえていたので、兄の方まで口が利けないわけでは無いと思うが、あまりにも反応が無いので顔を見上げる。
すると男は、心ここにあらずといった目でナルトを見ている。
たったまま寝ているのかと冗談半分でナルトは考えて、子供に合わせていた目線から腰を伸ばして男に合わせる。

「おい、聞いてんのか?って、アレ?」

目線を合わせて男の顔を覗き込もうと近づくと、黒い髪の毛の中に変な物を見つける。

「なんかついてるぞ?」
「触るな!」

大きなゴミかと思い、取ろうと手を伸ばすと、男が動いてナルトの手を叩き落とす。
突然の拒絶にナルトはびっくりして言葉も出ない。

「あ、いや、すまない・・・」

それを見た男は動揺する。
男はとりあえず弁明しようと言葉を選んでいるが、ナルトはそれ所では無かった。
男がナルトの手を払った瞬間に、手から全身に軽い電流が走ったのだ。
男が動揺し始めてから、軽い電流が皮膚を刺激し、産毛が逆立っている感覚を覚える。
その微妙な刺激が気持ち悪いとも心地良いともつかなくて、ナルトは固まったまま動けない。

「コレは角だ」

男は散々悩んだ結果、それだけ言う。

「はあ?」

突然の言葉にびっくりして、なんとも間抜けな声が出る。
男の言葉を反芻してみる。
角と言っていたか・・・。

「角?」
「そうだ、角だ」

間違いでは無いらしい。
しかし、なぜ角が生えているのか?
考えたところで解りそうに無い。

「この角は常にある程度電流が流れているから、人間が触ると危ないんだ」

だから先ほど手を払ったのだ、と言われても、ナルトは訳が解らない。
電流の流れている角が生えている人間など聞いたことが無い。

「なんか、雷神っぽい?」

そういえば昔、雷神と風神の絵を見たことがあるなあと思いながら口にすると、男が頷く。

「ああ、俺は雷神だ」

あまりに非現実的な回答にナルトが言葉に困っていると、自称雷神は説明を始める。

「コイツは俺の眷属なんだが、いきなり人間界に降りて行ってしまったので迎えに来たんだ。謝って落ちたんだったら許そうかとも思ったんだが、自分の意思で降りてきたというから叱っていたんだ」

雷神がその眷属という子供を睨むと、子供は申し訳なさそうに縮こまった。

「それと、コイツには名前は無い。言ってみりゃお前達人間が使う・・・。そう、影分身と言ったか?あれと一緒だからな」

そこまで語ると、雷神は子供をひょいと腕に抱え背中から翼を出した。

「色々迷惑をかけたな。俺の名前はサスケという。またいずれ詫びを言いに来る」

飛び立とうとすると、子供がサスケの髪を引っ張り何かを伝える。

「またな、ナルト」

どうやら伝えたのはナルトの名前らしく、サスケは別れの言葉を一方的に言うとそのまま空へ飛んでいってしまった。

「何がなんやら・・・・」

とりあえずは、サクラに報告をしなければならないだろう。
状況についていけず、頭痛を覚えながら火影塔へ行く準備を始める。



「あら、ナルト。どうしたの?あの子置いてきちゃったの?」
「いやー・・・それがさ」

火影の館に行くと、運良くサクラが廊下を歩いて来るところに出会った。
すぐに目が覚めてからの事を話す。

「はあ?あんた寝ぼけてたんじゃない?」
「俺もそう思ったってばよ。でも、子供もいないし・・・。確かに手を叩かれた時、痛みがあったってばよ」

二人は無言で互いの目を見詰め合う。

「あー・・・まあ、とりあえず子供の引き取り手もいて良かったわね」
「良かったのかな?」
「そう思っておきなさいよ。それに、お詫びしに来てくれるって言ってたんでしょ?そしたら、夢じゃなかったってハッキリするじゃない」
「あーーー!そうだよ、アイツまた来るかもしんないんだ!」
「ちょっと!」

どーしよーと騒いでいるナルトの襟をサクラはいきなりつかむ。
サクラの腕力はすごく、ナルトは身動きが取れなくなる。

「はい!」
「一つ聴きたいんだけど」
「ナンでしょうか!?」

サクラの目は真剣そのもので、迫力がある。
あまりの迫力にナルトは恐れ戦いてしまう。

「あの子結構格好良かったじゃない?雷神様はどうだったの?」
「えーーーっとねえ」

ナルトは少ししか会わなかったサスケの顔を一生懸命思い出そうとする。

「あの子供がそのまま大きくなった感じだったかな?」
「って事はイケメン?!」

さらに襟を自分より背の低いサクラの方に引っ張られて、ナルトは中途半端な中腰になる。
周りにいる同僚達がそんなナルトを見て、笑いを隠そうともせず通り過ぎて行く事に羞恥を感じるが、サクラには逆らえない。
またもやサスケの顔を思い浮かべる。

「結構格好良かったと思うってば」

子供が目を開けた時以上に見惚れてしまった事を思い出す。

「あんた、写真撮って来なさい」
「ふぇ?」

意識を過去に飛ばしていたナルトに、突然命令が下る。
言われたことの意味が解らず、間抜けな声を出してしまう。

「だからあ、その雷神様がお詫びを言いに来た時に、証拠写真を撮って来なさい」
「え?でも俺カメラなんか持ってないってばよ」
「私のしばらく貸してあげるから、いい?必ずよ!」

一方的に約束させすると、サクラは仕事が溜まっているのか、慌てたように廊下を走っていってしまう。

「アイツがいつ来るかもわかんないってばよ・・・。」

ナルトは本人には決して言えない言葉を呟き、大きくため息をついた。
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